株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
言葉を話さない猫の健康を確かめる上で、体重はとても重要なバロメータです。増えることも問題ですが、減ってしまうことはより大きな問題が隠れているかもしれません。しかし、ゆっくりと体重が減少していることにはなかなか気づきづらいものです。体重減少に気づいた時には、しっかりと注意しておきたいですよね。
今回は、数週間〜数ヶ月かけてゆっくりと体重が減少している場合について、原因や対処法などをご紹介していきます。
監修した専門家
株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
動物病院勤務 獣医師
獣医師。公務員獣医師として家畜防疫、牛の改良繁殖に携わる。その後はアミカペットクリニック、アカデメイア動物病院にて小動物臨床に従事。株式会社RABOにてWebコンテンツの監修も行っている。
体重は、とても重要な指標です。身体のどこかで起きている変化を、数字で教えてくれるからです。
元気がない、嘔吐、食欲不振などはなかなか数字で捉えることができません。でも体重は、主観ではなく事実として、客観的に数字で表すことができます。
それに、自宅で計測できるというのも大事ですよね。血液検査やレントゲンとは違い、誰もが測ることができるというシンプルさもあります。
診察室に入ったあと、一番はじめにすることは何でしょうか?そう、体重計測ですね。診察台と体重計が一体になったあの機械で体重を測り、獣医師はその体重をメモします。
それだけ、体重は「定点観測」する価値のある指標であるという証です。元気そうに見えるのに、体重だけが減っている…?ということから病気に気付ける場合もよくあります。ご自宅でも測り、その変化を把握しておくことは、健康管理において大きな助けとなるはずです。
猫の体重の測り方をご存知ですか?実は自宅でも簡単に測ることができます。
① 猫を抱っこして体重計に乗る
② 猫を下ろして、自分の体重を測る
③ 最後に、①-②=猫の体重
とはいえ、毎日体重を測るというのも大変ですし、それをメモするのも面倒ですよね。Catlog Boardを使えば、トイレに乗るたびに体重を測ることができて、アプリでも確認することができるので、毎日の健康管理・体重管理が簡単になります。もちろん、体重だけでなく、おしっこ量やうんちの回数など、トイレに関わる重要なデータを常に記録しておくことができます。
Catlog Boardについて詳しくはこちら
体重が変化したとしても、「100gくらいなら気にしなくていいかな」と思ってしまうかもしれませんが、体重の小さな猫にとっては大きな変化に相当します。猫と人間では、およそ10倍の体重差があるため、人に置き換えてみれば1kgほどの変化に値するのです。500gであれば、5kgです。何の理由も無く、減ることは考えにくいと思いませんか?
毎日、猫の体重を測っている飼い主はかなり少数です。ゆっくりと体重減少が続いているとき、ほとんどの飼い主が気づくタイミングは、見た目で変化がわかるくらい体重が減ったときか、動物病院での診察時に前回と比較したときになります。
自分の体重ですら、長期的な変化を把握するのは難しいものですよね。しかし、ゆっくりと体重減少を起こしているときは、身体に何らかの異常をきたしている可能性があるため、確実に気づいておきたい変化と言えます。
意図的に減量している場合(ダイエット中の場合)は、この限りではありません。理想的な減量(ダイエット)ペースは、1週間で1%ほどと言われています(元の体重に対して)。1ヶ月に直すと、約4%ほどですね。
<理想的な減量ペースの例(体重5kgの場合)>
開始日:5.0kg
2週間後:4.9kg(-100g)
4週間後(約1ヶ月後):4.8kg(-200g)
8週間後(約2ヶ月後):4.4kg(-400g)
これ以上早いペースで体重が落ちているときは、減りすぎている可能性があります。精神的にも健康面でも、負担がかかりますので、ペースの見直しを検討してください。
体重が減少している場合には、必ず何か原因があります。しかし、減量そのものによっても悪影響を及ぼしてしまうこともあるのをご存知でしょうか? 特に急激に体重が減少した時に見られる病態ですが、これを肝リピドーシス(脂肪肝)と言います。
食欲が落ちたり全く食べなくなることにより、体内に蓄えられた脂肪が血中に放出され、それが肝臓に溜まってしまうことで起きます。進行すると、肝不全の状態となってしまい、場合によっては死に至ることもあります。
食事できない期間が3-7日間続くことで起きる可能性があり、特に肥満の猫では危険性が高まります。数ヶ月かけて徐々に体重が落ちるようなペースであれば、肝リピドーシスを起こすことはまずありませんが、急に体重が減少している時は注意してください。
体重が落ちるメカニズムはシンプルです。「摂取したエネルギーよりも、消費したエネルギーが多かった時」に体重が落ちます。これを、飢餓(きが)状態と言います。
単純性飢餓とも呼ばれますが、病気などがないにも関わらず体重が減少するもの、つまりダイエットなどを指します。ほかにも、例えばフードが嫌いで自ら食べようとしない場合や、ほかの同居猫に横取りされている場合、強いストレスが原因で食事が取れない状態になっている場合などもこれにあたります。
意図的ではないケースとして挙げられるものが、フード を変えたあとに体重が変化するものです。フードによってグラムあたりのエネルギー量が異なるので、フードが変われば1日の給餌量は変わります。それに気づかず「前のままのグラム数」でフードをあげてしまうと、体重が変化することがあります。
病気などを起こしているとき、たとえこれまで通りの食事を食べられていても、身体の中では一生懸命病気と闘っているため、膨大なエネルギーを消費しています。通常は、食欲も下がることが多いので、摂取エネルギー自体も下がり、結果として体重が低下していく場合があります。
病気のニュースなどを見て「がんになると痩せるんだな」と感じたことはありませんか?がん細胞がたくさんのエネルギーを消費し(正確にはもっと複雑な体内の変化がありながら)、脂肪や筋肉が衰えていくことで、痩せてしまいます。これまで通りの食事をとっていたとしても徐々に痩せていってしまうのはこのためです。
猫も同じで、体内に腫瘍や大きな病気があるときは、ゆっくりと体重が落ちていくことがあります。
意図しない体重減少 は、たとえ緩やかであっても注意しなければならない異変です。ここでは、1-3ヶ月程度の期間で体重が落ちてしまう場合を想定しながら、その原因について考えてみましょう。
<ゆるやかな体重減少の原因>
原因 | 例 | 体重減少、食欲不振以外の症状 |
---|---|---|
①疾患(病気) | 胃腸系の疾患(胃炎、腸炎、膵炎、胆管炎など) | 元気低下、嘔吐、下痢、腹痛など |
悪性腫瘍 | 元気低下、嘔吐、下痢など | |
口内炎 | 口の中の痛み、出血など | |
慢性腎臓病 | 元気低下、食欲不振、多飲多尿など | |
甲状腺機能亢進症 | 食欲の亢進(食欲が上がる)、活動量が上がる、心拍数増など | |
肝臓病 | 元気消失、嘔吐、黄疸など | |
心筋症 | 呼吸困難、咳、後肢のマヒなど | |
糖尿病 | 元気低下、多飲多尿など | |
| 感染症(ウイルス疾患、寄生虫など) | 発熱、くしゃみ、鼻水、咳、下痢、嘔吐など |
②ストレス | 環境の変化(引っ越し、来客、新猫のお迎え) | 元気低下、隠れている、排泄を控えるなど |
騒音(カミナリ、工事、花火など) | 音に過敏になる、かくれているなど | |
動物病院でのストレス | 頻尿、過剰なグルーミング、脱毛など | |
③フード(食餌) | 急な食事の変更 | 嘔吐、下痢など |
同居猫による横取り |
|
体重が減ったときの原因としてまず考えておくべきは、病気です。食欲不振が原因で起こる体重 減少もありますし、病気そのものが原因で起こる体重減少もあります。特に、数ヶ月かけて体重減少が進んでいるときは、なんらかの慢性疾患が隠れている可能性があります。以下は一例ですが、関連症状がないか、考えられる病歴がないかなどを参考にしてください。
慢性胃炎や慢性腸炎をはじめとし、消化酵素を出す膵臓に炎症が起きる慢性膵炎、これと同時発生することも多い胆管や肝臓の炎症などが原因で食欲がなくなり、体重が減ることがあります。
嘔吐や下痢、元気がなくなるなどの症状が同時に起こることも多いですが、出ないこともあります。特に猫は症状がハッキリしないことが多く、元々たくさん食べない猫であれば、さらに異変に気付きにくくなってしまいます。
下痢については、下記記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
悪性腫瘍は、全身に影響を与えることが多いため、体重に影響を及ぼすことが多くあります。しかも、食欲は変化しないこともあります。その他に症状を見せない場合、体重減少が最初の兆候として見られることがあり、「徐々に体重が減ってきた」という場合は、腫瘍の可能性も考えておくべきです。
悪性腫瘍はエネルギーを多分に消費するため、食欲が変わらなくても体重が落ちることがある点にも注意が必要です。
腫瘍のできる場所や種類によっても症状は異なります。よって、腫瘍は他にもあらゆる症状を起こす可能性があります。人と同様に、高齢になるほど発症率はあがるので、高齢の猫では注意してください。
ウイルス感染などが考えられていますが、口内炎を持っている猫が実はたくさんいます。強い炎症が起きると痛みを伴うため、食べる量が減ったり、場合によっては全く食べられなくなることもあります。「食事に興味を示すけれども食べない」という特徴的な行動が見られることがあり、食欲はあるけど痛みで食べられない状況になります。炎症が強い場合には、だ液が増えることで気付けるケースもあります。
慢性腎臓病は全ての猫が注意しなければならない病気で、徐々に食欲がなくなったり、多飲多尿(たくさん水を飲んで、たくさんおしっこをする)症状を示すことが多いです。高齢の猫ではリスクが高くなり、重度になると、悪液質といって急激に全身の筋肉が衰え、急に体重が減少するような状態も見られます。尿毒症の影響で、胃炎や胃潰瘍といった消化器疾患が見られ、食欲が低下する場合もあります。
猫の内分泌疾患の中でも多い病気の一つに甲状腺機能亢進症があります。代謝を上げる甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気で、高齢の猫に多く見られます。総じて「UP(アップ)」側に傾く症状が特徴的で、食欲・元気・心拍数・呼吸数などさまざまな上昇がみられます。一方で、エネルギーの消費が激しいために体重は下がりやすく、長期的な体重減少にはこの病気が隠れていることもあります。
肝臓疾患は明らかな症状が出にくく、飼い主も気づかないまま進行しやすい病気です。健康診断で肝臓の異常が見つかった場合や他に症状が無かったりしても、実は肝臓病が隠れていたというケースもあります。体重減少だけが見られるようなこともあるので、注意したいですね。
猫に多い肥大型心筋症(HCM)は、基本的には慢性的にゆるやかに進行していきます。心機能が落ちることで、全身循環がうまくいかなくなり、活動量が減ったり、咳が出たりする症状が見られます。これにともなって食欲も落ちることがあり、徐々に痩せていく場合もあります。
重度になると、食欲不振に加えて筋肉量が減少する悪液質の症状が見られることもあります。
心筋症については下記の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
猫に多い病気の一つに、糖尿病があります。慢性的に進行していく病気であり、数週間から数ヶ月かけてゆっくりと体重が減少していく場合があります。特に、もともと肥満の猫では発症のリスクも高まりますので注意してください 。
ウイルス感染症により、長い時間食欲が出なくなったり、口内炎の痛み・食べづらさにより体重が減少することがあります。猫エイズウイルス感染症(FIV)や猫白血病ウイルス感染症(FeLV)は全身状態に影響し、長期的に症状を生じさせるウイルスでもあります。
他には寄生虫感染による体重減少もあります。特に、子猫や外猫出身の猫に多く、消化管内に寄生虫が寄生することで、徐々に体重が落ちるケースが見られます。
病気ではなくとも、長い間ストレスがかかることが原因で、食欲や体重が落ちてしまうことがあります。ストレスを特定するのは難しいですが、思い当たるものがないか家族で相談してみるのも良いでしょう。
猫にとって、環境の変化は大きなストレスになりえます。特に、引っ越しは環境がまるごと変わるため、慣れるまではストレスを抱えてしまうことが多いです。また、新たな猫のお迎え後も、警戒心からかストレスになることもあり、食欲が出ずに痩せてしまう場合もあります。
普段聞き慣れない音にもストレスを感じやすいです。工事などは数ヶ月続くこともありますが、こうした継続的な音が気になり、食欲が減ることもあります。カミナリや花火など単発的なものであっても、ある種トラウマのような記憶となってしまい、しばらく引きずってしまう猫もいます。
治療するために行った動物病院でもストレスを抱えてしまうことがありますよね。ほとんどは何度か通ううちに慣れてくるものですが、慣れないうちは食欲が落ちてしまうこともあります。しばらく食欲不振が続くことで体重が徐々に落ちてしまうということもあるでしょう。
「いつものフードが売り切れで、違うフードを買ってきた」、「病気になったので療法食に変えた」などごはんを変更せざるを得ないタイミングもあるでしょう。猫の好みではない場合、思うように食べてくれないこともあります。
猫は、おどろくほど頑固に食べないことがあり、食欲はあるにも関わらず好き嫌いしてしまう猫もいます。さすがに数ヶ月間にわたって口にしないということはないでしょうが、いつも食べ切らずに残してしまう場合には、徐々に体重が減ってくることがあります。
食事は毎回食べきっているのに痩せてきた、という時は、同居猫が横取りしているというケースもあります。食欲旺盛な同居猫がいる場合には、横取りされていることがないかも確認してみてください。
猫の体重の変化は気づきづらいものですが、見た目や行動にも何かしら変化があるかもしれません。もちろん、食欲がなんとなく減っていることで気づくことも多いでしょう。
動物病院に行って診察を受けることがベストですが、その前にできるだけ可能性について考えておけると良 いです。
<体重減少の時にすべきこと3ステップ>
①直近でストレスがなかったかを確認
②食事量を把握する
③ほかに症状が出ていないかを確認
④動物病院に連れていく
元気消失の原因のひとつに、ストレスがあります。数週間〜数ヶ月の間に、猫に強くストレスがかかった出来事はないか、思い返してみましょう。
<ストレスのチェックリスト>
引っ越し
新しい猫をお迎えした
家族が増えた
慣れない来客があった
旅行に行った
気温が大きく変わった
食事を変更した
動物病院に行った
自宅や近隣で工事が始まった
豪雨やカミナリが鳴っていた
花火大会など騒音が大きかった
ここに挙げたもの以外でも、強いストレスとなり得る場面があったならば、その出来事と関係している可能 性があります。原因がハッキリしない場合でも様子見するのではなく、明らかに体重が減少しているのであれば、かかりつけの動物病院に相談しましょう。
痩せてきたころからの食事量を思い返してみましょう。メモをとっていればベストですが、まずは、食欲にどのような変化があったかを可能な限り確認してみてください。
日々、グラム数を決めている場合は、お皿に入れた時と残した量を比べて、いつもより何パーセント食事量が減っているかまで割り出せるとよいでしょう。実は、食欲が変わっていない場合もあるかもしれません。そうした状況を含めて、獣医師にお知らせできると良いですね。
念のため、病気の可能性も考えておきましょう。この時、体重減少だけでなく、他にどのような症状がみられているかも重要なヒントになります。
できれば、メモ帳などにリストにしておき、いつから起きているのかなども追記しておくとベストです。
<体重減少・食欲低下以外の症状チェックリスト>
元気の低下
発 熱の有無(触って確かめる、でも良い)
咳、呼吸のあらさ
嘔吐/下痢/軟便(隠れてしていることもあり)
腹痛や身体の痛み
歩き方、走り方の違和感
トイレの回数の増減
おしっこの色の異常
意識状態の異常(ぼんやりしている、昏睡しているなど)
上記以外にも、いつもとは違う気になる症状や行動はなかったかなどをできるかぎり思い出してみましょう。
上記①〜③をチェックした上で、動物病院に行きましょう。「体重が減っただけで病院に行っていいのかしら」と悩む場合には、まずはかかりつけ病院に電話をしてみるのも手です。
現在の状況が悪そうな場合には、夜中でも病院にかかる必要があります。まずはかかりつけ医に相談すると良いですが、夜で連絡がつかない時は、夜間救急病院を探しましょう。近年は全国的に夜間病院も増えています。事前に、一番近くの夜間救急病院を調べておけるとベストです。
「Catlog Board(キャトログボード)」では、アプリで体重の減少についてお知らせする機能を搭載しています。前述の3ステップを参考にしながら、心配な場合や思い当たることがある場合には、かかりつけの動物病院にもご相談ください。
※このアラートは、何らかの理由でCatlog Boardが正しく計測できなかった場合にも表示されることがあります。猫様の健康状態に問題がない場合は、記録に誤りがないか等をご確認ください。
※Catlogシリーズは、動物の疾病の診断、治療もしくは予防に使用するものではなく、医療機器ではありません。本アラートを参考のひとつとしていただき、ご自身の判断で動物病院にご通院等いただくようお願いします。
猫の「ゆるやかな体重の減少」についてご紹介しました。とても一般的で、原因を特定しがたい症状ですが、意図せず減っているのならば必ず理由があるはずです。可能性や気づき程度でも良いので、できるだけ原因を考えた上で病院にいくと、適切な診療の助けになります。
ぜひ本記事がご愛猫様の健康の助けになれば幸いです。
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ライター
猫様のいる暮らし編集部
2匹の猫様と一緒に暮らしています。無防備になったお腹に顔をうずめ、猫吸いをさせていただくのが至福の時間。 猫様との暮らしにまつわる情報をお届けします。
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