株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
猫は体調の変化を隠しやすい生き物であるにもにもかかわらず、猫の元気がなくなったり、動きがにぶくなったりすると心配ですよね。加齢に伴うものもあれば、病気が原因なこともあります。また、急に元気がなくなったことは気づきやすくても、数週間〜数ヶ月をかけて徐々に元気がなくなってくることに気づくのは簡単ではありません。今回は、「ゆるやかに猫の元気がなくなってきたとき」の原因や対処法などをご紹介していきます。
監修した専門家
株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
アリアスペットクリニック 院長 / 臨床獣医師
神奈川県の地域中核病院でジェネラリストとして経験を積みながら、学会発表も行う。2019年アメリカ獣医内科学会で口頭発表。アニコムホールディングスに入社後は#stayanicomプロジェクトの中心メンバーとしてコロナ禍のペット救護に当たる。2020年から現職。得意分野は運動器疾患、猫使い(使われ)。
いつもと比べて元気がない、ぐったりとしていて動きづらそう…そんな「なんとなく調子が悪そう」な状態を目にしたご経験のある方も多いはず。元気が落ちることはどんな病気でもどんな猫でも起きうるものですが、数週間、ときに数ヶ月にわたって少しずつ元気がなくなってくる場合は、その事実に気づきにくいのは当然です。
だからこそ、実は「元気がない」という症状は、獣医療の中でも最重要の指標の一つであり、飼い主として気づいてあげたい症状の一つなのです。
獣医学的には、元気がない状態のことを「元気の低下」や「元気消失」、「元気消退」などと表現します。
獣医療は、人医療のように自覚症状をもとに診療できない分、飼い主や獣医師から見た他覚的な評価が大事です。その中でも「元気」は猫の活動状態や精神状態のバロメーターとして判断できるため、最も重要な指標の一つです。
元気の指標でもある活動量ですが、なかなかいつもの活動量を把握することは難しいですし、どうしても「なんとなく」でしか判断できないことも多いですよね(ご家族の間でも見解が割れることさえ多くあります)。毎日一緒に過ごしているからこそ、長期的な変化を把握するのはさらに難しくなります。
しかし、猫の具合が悪くなった場合には、「いつから具合が悪くなったのか」や「いつもと比べてどのくらい元気がないのか」を正確に獣医師に伝えることが重要です。
Catlog(キャトログ)は、首輪型のデバイスで24時間365日猫の活動量を見守ることができます。今日の活動量を計測しつづけることで、先月と比べてどのくらい活動量が増減しているのか、ということもひと目でわかります。活動量を把握することが難しい、猫が高齢のためもっと正確に把握しておきたい、などの場合はCatlogをご検討ください。
Catlogについて詳しくはこちら
数週間〜数ヶ月かけて元気がなくなっている、という状態のイメージがつきにくいかもしれませんので、「ゆるやかな元気消失」には、どういった例があるかをご紹介します。
<ゆるやかに元気がなくなっている時の例>
・走ったり歩いたりする時間が徐々に減り、寝ている時間が増えている
・以前のようにご飯のときに駆け寄ってこようとしない
・階段や高いところに登る頻度が減った
・楽しいはずのことを楽しまず、じっと眺めているだけで動かない
・おもちゃで遊ぼうとしても、気乗りしないことが増えた
元気がない、ということはなんらかの体調不良のシグナルを訴えているかもしれません。それも慢性的に抱えるトラブルの可能性があります。
<ゆるやかに元気がなくなっていきやすい場合>
・どこかに痛さがあり、おさまらない
・気持ちが悪い
・身体にだるさがある
・慢性的にストレスを抱えている
・季節の変化(気温など)
・加齢
ここでは「ゆるやかに」の定義を「数週間〜数ヶ月」とおいて考えてみます。時間をかけて徐々に元気がなくなるということは、急激に症状を起こす急性疾患は考えづらそうです。どちらかというと、大きな病状は出さないが治りづらい病気や、慢性的に進行するため気づきにくい病気などが隠れている可能性の方が高そうですよね。
とはいえ、元気消失はどのような病気の時にも起きる可能性がありますし、時に身体の異常ではなく、精神的なストレスや加齢が原因でも起こることがあります。もちろん、病気やトラブルとは無関係のこと(季節の変化など)もあります。
<ゆるやかに元気がなくなる原因の一例>
原因 | 例 | 元気消失以外の症状 |
---|---|---|
①疾患(病気) | 胃腸系の疾患(慢性胃炎、慢性腸炎、慢性膵炎など) | 食欲不振、嘔吐、下痢、腹痛、食の好みの変化など |
慢性腎臓病 | 体重減少、食欲不振、口臭、多飲多尿、毛並みの変化など | |
膀胱炎 | 頻尿、血尿など | |
糖尿病 | 多飲多尿、食欲不振、多食、体重減少など | |
心筋症 | 食欲不振、嘔吐、開口呼吸など | |
猫喘息 | 咳、呼吸困難 | |
感染症(猫エイズウイルス感染症、猫カゼなど) | 発熱、くしゃみ、鼻水、咳など | |
炎症性疾患 | 発熱、痛みなど | |
腫瘍 | 食欲不振、下痢、嘔吐など | |
②ストレス | 環境の変化(引っ越し、来客、新猫のお迎えなど) | 食欲不振、隠れている、排泄を控えるなど |
騒音(カミナリ、工事など) | 食欲不振、音に過敏になるなど | |
③その他 | 加齢 | 遊ばない、寝てばかりいるなど |
季節の変化 | 食欲不振、寝てばかりいるなど |
徐々に元気がなくなってきているとき、原因としてまず考えておく必要があることは、病気による元気消失です。ほとんど全ての疾患で起こり得るものですが、慢性的に症状が続くような病気が隠れている可能性があるのです。
経過が長くなるほど「いつもこんなものかな?」と、病気であることに気づきづらくなりますので、注意しましょう。以下は、一例として参考にしてください。
胃腸など消化に関係する病気が原因で元気がなくなってしまうことは多くあります。慢性胃炎や慢性腸炎など は一般的で、激しい嘔吐や下痢・腹痛など、そこまで大きな症状はなくとも、じわじわとした痛みや気持ちの悪さが続くことで、元気がなくなってくることがあります。消化に関わる膵臓に炎症を起こす慢性膵炎も、同様の症状が見られることがあります。
こうした病気では、食欲不振を始め、うんちのゆるさや嘔吐が同時に起こることもあります。以前からフードや胃液を吐きやすい猫の場合であっても、その頻度が増えてきた時には注意しましょう。
猫で最も注意しなければいけないのがこの慢性腎臓病です。慢性というくらいですので、徐々に進行していく病気ですが、特に目立った症状はないままであることも多く、気づいたら元気がなくなっていて、病院で診療を受けると慢性腎臓病とわかった、というケースはめずらしくありません。
この場合、食欲不振や、体重の減少、多飲多尿(たくさんお水を飲み、大量におしっこをする)といった症状が見られることが多いです。また毛並みが悪くなったり、口臭が気になる場合にも 注意が必要です。
慢性腎臓病と同じく、注意する必要があるのが膀胱炎です。通常はそれほど長引かない病気ですが、長い時間をかけて元気がなくなるということは、それだけ治りにくい状態にあるかもしれません。
血尿や頻尿といったサインも多くみられますので、こうしたサインがないかもチェックしてみましょう。トイレの掃除をするときは、1回ごとの尿量、ニオイの変化などにも注 意してみましょう。
猫に多い病気の一つに、糖尿病があります。これも慢性的に進行していく病気であるため、徐々に元気がなくなっていくことがあります。肥満が原因になることもありますので、ぽっちゃりしている猫では特に注意してください。
その他に糖尿病でみられやすい症状は、食欲不振、体重の減少、多飲多尿(たくさんお水を飲み、大量におしっこをする)などです。
猫に多い肥大型心筋症(HCM)は、時間をかけてゆるやかに進行していく病気です。心臓(特に左側)が頑張りすぎてしまい筋肉が肥大することで、心臓の内部が狭くなってしまいます。これにより、全身に血液が十分に送れなくなり、循環が悪化する病気です。
ですので、運動不耐性といって、活動量が減少したり走ることをしなくなったりする症状がみられやすく、また、呼吸が荒くなったり咳が出るなどの症状も併せて起こすことがあります。
心筋症については下記の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
なんらかの原因によって喘息症状が起き、咳や呼吸困難を起こします。猫の咳はわかりにくく「ヒィーッ、ヒィーッ」という独特な音がするのですが、猫は咳を我慢してしまいやすく、一見ただ元気がないだけのように見えることもあります。発作のように30秒 から1分ほどで咳はおさまりますが、「以前よりも頻度が増えてきたかな?」という場合は要注意です。
主に、外で生活する猫や多頭飼育される猫で起きやすい感染症ですが、例えば猫カゼと言われる猫ヘルペスウイルス感染症、猫カリシウイルス感染症は、元気消失をはじめ、食欲不振やくしゃみ、鼻水、目やにを引き起こします。
猫エイズウイルス感染症(FIV)や、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)では、感染後のあらゆる時期に元気を低下させる可能性があります。免疫力が低下し、「病気がち」な状態になってしまうためです。
もちろん、これらに限らずほとんどの感染症でも、元気消失を起こすことがあります。
関連記事:猫の目ヤニとは?原因や症状別の対処法、ケア方法を解説! 関連記事:【獣医師が徹底解説】猫エイズの感染経路や症状、予防法など紹介。猫白血病との違いも解説
身体のどこかに炎症が起きることで元気消失につながることもあります。特に、免疫が関与する炎症性疾患では、いつも炎症が起きているため、だるさや痛みから長期間にわたって元気消失がみられることもあります。
関節炎は、高齢の猫ではかなり一般的であり、ある報告では11歳以上の93.8%に関節炎の所見がみられるというデータもあるほどです。関節炎は、一部の関節だけでなく、手足の関節にまたがって起きることもあるため、関節炎を起こすと明らかに活動量が減るという報告もあります。
高齢猫で特に注意したいのが、腫瘍です。悪性腫瘍は、さまざまな形で身体に悪影響を与えます。体表にできる腫瘍もありますし、内臓や血管にできる腫瘍もあります。体内にできた腫瘍には気づきにくく、知らぬ間に、かつ徐々に進行します。「元気がだんだんなくなってきた気がする」という主訴(獣医師に対する訴え)から腫瘍が発見されることも珍しくありません。
慢性的なストレスが原因で、元気がなくなってしまうこともあります。何が原因なのかを特定することは難しいですが、元気がなくなってきた時期と照らし合わせ、思い当たる点がないか確認してみましょう。
ただし、ストレスが一因であったとしても、他に病気が隠れている可能性もあるので注意してください。
猫にとって、環境の変化は大きなストレスになります。元気がない・隠れているといった行動が、環境が変わった直後だけでなく長続きしているのなら、今もまだストレスを抱えているかもしれません。
例えば、引っ越しをしたならば、まだ新居に慣れることができていない可能性があります。長期間家族以外が寝泊まりしている場合も、リラックスして過ごすことは難しいかもしれません。赤ちゃんが生まれたあとなども警戒してストレスを抱えることもあるようです。新しい猫(または犬など)を迎えたあと、その猫と折り合いがつかずにいることもあります。
解決はなかなか難しいですが、猫が安心できるような工夫をしてみると良いかもしれませんね。猫のペースで少しずつ慣れていけるように、一人で静かに過ごせる場所を用意しましょう。
普段はないような騒音がストレスになることもあります。例えば、近隣での工事が長期間続くと音がするたびにストレスを感じるでしょうし、繊細な猫であればなおさら怖くなってしまうこともあるでしょう。雷が数日鳴り響くこともありますが、これによって怯えてしまい、いつものような元気を見せなくなることもあります。
猫は人間の約6倍早く歳をとる生き物です。数ヶ月であっても加齢が急に進んでしまうこともあります。Catlog総研のデータでは、年齢が上がるごとに運動量が下がるという統計もあります。
ただ、加齢が原因かどうかは特定が難しく、そのほかに考えられる原因がないときに加齢であると言われることが多いです。