株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
猫は体調の変化を隠しやすい生き物。にもかかわらず、急に元気がなくなったり、動きがにぶくなったりすると心配ですよね。実際、動物病院では「何が原因かはわからないけど、元気がないんです」という理由で来院される飼い主さんは多くいらっしゃいます。今回は、猫の急な元気低下について原因や対処法などをご紹介していきます。
監修した専門家
株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
アリアスペットクリニック 院長 / 臨床獣医師
神奈川県の地域中核病院でジェネラリストとして経験を積みながら、学会発表も行う。2019年アメリカ獣医内科学会で口頭発表。アニコムホールディングスに入社後は#stayanicomプロジェクトの中心メンバーとしてコロナ禍のペット救護に当たる。2020年から現職。得意分野は運動器疾患、猫使い(使われ)。
いつもと比べて元気がない、ぐったりとしていて動きが悪いような…?というご経験のある方も多いのではないでしょうか。元気が落ちることはどんな病気でも、どんな猫でも起きうるものです。だからこそ、「元気がない」という症状は、獣医療の中でも最重要の指標の一つです。
獣医学的には、元気がない状態のことを「元気の低下」や「元気消失」、「元気消退」などと表現します。教科書的には「不活発な状態」とか「活力の消失」などと定義されていて、ここに「精神状態の低下」が加わることもあります。
「元気」と言うと曖昧な表現と思われるかもしれませんが、人医療のように自覚症状を聞くことができない分、猫の活動状態や精神状態を「元気」として評価をする必要があります。そのため、動物病院でも日々使われている単語です。
つまり、元気がない状態とは、いつものような活動状態に比べて活動が低下している状態であり、時に精神的にも落ち込んでいる状態と言えます。「意気消沈」という言葉がわかりやすいかもしれません。
元気がない状態は、例えば以下のような状態です。
<元気がない状態の例>
いつもは走ったり歩いたりするのに、寝てばかりいる
ぐったりとして動こうとしない
ご飯のときに駆け寄ってこず、ベッドから動かない
どこかを痛そうにしていて、いつものように歩いたり階段を登ったりしない
楽しいはずのことを楽しまず、じっと眺めているだけで動かない
暗いところに隠れている
など
元気の指標でもある活動量ですが、なかなかいつもの活動量を把握することは難しいですし、どうしても「なんとなく」でしか判断できないことも多いですよね。ご家族の間でも見解が割れることさえ多くあります。
しかし、猫の具合が悪くなった場合には、「いつから具合が悪くなったのか」や「いつもと比べてどのくらい元気がないのか」を正確に獣医師に伝えることが重要です。
Catlog(キャトログ)は、首輪型のデバイスで24時間365日猫の活動量を見守ることができます。今日の活動量を計測しつづけることで、先週(または先月)と比べてどのくらい活動量が増減しているのか、ということもひと目でわかります。活動量を把握 することが難しい、猫が高齢のためもっと正確に把握しておきたい、などの場合はCatlogをご検討ください。
Catlogについて詳しくはこちら
元気がないということは、なんらかの不調のシグナルかもしれません。猫の元気がなくなる可能性のある症状は、いくつか挙げられます。
<元気がなくなりやすい症状の例>
・痛み
・気持ちの悪さ
・身体のだるさ
・精神的なストレス
動物病院のカルテではよく「元気消失」や「元気↓↓」などと書かれます。どのような病気の時にも起きる可能性がありますし、時に身体の異常ではなく精神的なストレスが原因でも起こることがあります。このように書くと、妙に不安に思われる方も多いと思いますが、 もちろん、病気やトラブルとは無関係のこともあります。
大事なことは、正しく警戒する、ということです。ここでは主に、トラブルがあった場合に考えられること、という視点で、急な元気消失の原因について詳しくご紹介します。
※以下でご紹介する原因は、一例です。原因はこれに限りませんのでご留意ください。
<猫の急な元気消失の原因>
原因 | 例 | 元気消失以外の症状 |
①疾患(病気) | 胃腸系の疾患(胃炎、腸炎、膵炎、胆管炎など) | 食欲不振、嘔吐、下痢、腹痛など |
慢性腎臓病 | 体重減少、食欲不振、多飲多尿など | |
尿道閉塞 | 排尿困難、痛みなど | |
心筋症の悪化(肺水腫、血栓塞栓症など) | 呼吸困難、咳、後肢のマヒなど | |
猫喘息 | 咳、呼吸困難 | |
感染症(猫エイズウイルス感染症、猫カゼなど) | 発熱、くしゃみ、鼻水、咳など | |
炎症性疾患 | 発熱、痛みなど | |
②誤飲・中毒 | 異物の誤飲 | 食欲不振、嘔吐、下痢など |
ユリ中毒 | 食欲不振、よだれ、嘔吐、無尿など | |
薬や毒物の誤飲 | 食欲不振、よだれ、嘔吐など | |
③ケガ | 骨折 | 足をつかない、痛みなど |
けんか傷による膿瘍 | 発熱、食欲不振 | |
④ストレス | 環境の変化(引っ越し、来客、新猫のお迎えなど) | 食欲不振、排泄頻度の低下など |
急な食事の変更 | 嘔吐、下痢など | |
騒音(カミナリ、工事、花火など) | 食欲不振など | |
⑤その他 | 薬の副作用 | 食欲不振、嘔吐、多飲多尿など |
術後 | 痛み、食欲不振など |
急に元気がなくなったとき、原因として考えておく必要があることは、病気による元気消失です。
ほとんど全ての疾患(病気)で元気消失を起こす可能性があります。中でも急に元気がなくなるときは「急性の症状を起こす病気」が隠れているかもしれません。
胃腸などの消化器に関係する病気が原因で元気がなくなることは一般的です。例えば、胃炎や腸炎をはじめとし、消化酵素を出す膵臓の炎症が起きる膵炎、これと同時発生することも多い胆管や肝臓の炎症などです。
嘔吐や下痢、食欲不振が同時に起こることも多いです。
猫で最も注意しなければいけないのがこの慢性腎臓病です。慢性というくらいですので、徐々に進行していく病気ですが、症状が急に現れることもあります。この場合、食欲不振や、体重の減少、多飲多尿(たくさんお水を飲み、大量におしっこをする)といった症状も見られることが多いです。
膀胱内に蓄積された尿中の結晶や結石、細胞のかたまりなどが尿道に流れ、おしっこが詰まってしまう病気です。特に、膀胱結石が見つかっている猫では要注意です。ある日突然起きるため、急激に元気がなくなり、トイレの中でうずくまったり、痛みで鳴き続けたり、何度もトイレに出入りするような症状も見られやすいです。陰部を舐めつづけるような行動も見られることがあります。
猫に多い肥大型心筋症(HCM)は、基本的には慢性的にゆるやかに進行していく病気ですが、急に心臓の機能が落ちることで、肺水腫や血栓塞栓症といった急性症状を起こすことがあります。
肺水腫では、ぐったりとし、動かなくなったり、呼吸が荒い、舌を出して呼吸をしている、舌の色が悪いなどの症状が起きやすいです。
血栓塞栓症では、心臓内にできてしまった血栓が流れていき、左右の後足に別れる血管の分岐で詰まることがあります。こちらも救急疾患であり、後ろ足が動かない、強い痛みを訴えて鳴き続けるなどが見られます。
心筋症については下記の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
なんらかの原因によって喘息症状が起き、咳や呼吸困難を起こします。猫の咳はわかりにくいですが「ヒィーッ、ヒィーッ」という独特な音がします。かつ、猫は咳を我慢してしまいがちで、一見ただ元気がないだけのように見えることがあります。発作のように30秒から1分ほど咳が続くような症状が見られる場合には要注意です。
主に、外で生活する猫や多頭飼育される猫で起きやすい感染症ですが、例えば猫エイズウイルス感染症(FIV)の感染初期や末期、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の感染などでは、急に状態が悪くなることがあります。また、猫かぜと言われる猫ヘルペスウイルス感染症、猫カリシウイルス感染症が悪化することで、元気消失につながることもあります。もちろん、これらに限らずほとんどの感染症でも同じことが言えます。
身体のどこかに炎症が起きることで元気消失につながることもあります。発熱もその一つで、原因にかかわらず元気がなくなることは一般的です。
また、高齢猫の多くが抱えていると言われる関節炎は、動くたびに痛みを伴うため、活動量が下がります。かといって他に症状もありません。そのため、結果的に「元気がない」と表現されることも多くあります。
主に若い猫(0-1歳)を中心に起こりやすいのが、誤飲やそれに伴う中毒です。誤飲した直後に症状を起こすこともあれば、しばらく経ってから突然起こすこ ともあります。
猫で起こしやすい異物誤飲は、おもちゃやヒモです。また、近年はウレタンマットの一部をかじり、誤飲するケースも増えているようです。飲み込んだ直後、つまり胃の中にあるときは大きな症状を示しにくいですが、小腸や大腸に流れると、腸閉塞を起こす場合もあり、急激に症状が生じます。特に、嘔吐は同時に起こしやすい症状です。
猫に有害な植物として代表的なものがユリ科植物です。ユリは猫にとって猛毒で、腎臓へ大きなダメージを与えます。少し食べてしまっただけでも症状がでることがあり、嘔吐、下痢、虚脱状態、無尿(おしっこが作られなくなる)などさまざまな症状を起こします。
ユリだけでなく、ほとんど全ての観葉植物は何らかの毒性を持っています。お部屋に飾る際は、十分に注意する必要があります。
救急病院でも時折見られるのが「人間用の薬を食べてしまった」というものです。人間用だから悪いというわけではなく、量も含めて中毒症状の原因となることがあります。また、タバコの吸い殻や、農薬、不凍液(車などに使われるもの)、害虫駆除剤や殺鼠剤なども同様です。
外傷や骨折など、なんらかのケガを負うことで痛みを訴え、活動量が下がることがあります。四肢のどこかの骨折であれば、折れた足を上げて歩く様子が見られます。傷は、出血していないと見つけるのが難しいことも多いです。
猫はかなり身体能力に優れており、かつしなやかな動きをすることから、そう簡単に骨折することはないですが、高いところから落下したり、交通事故により骨折することがあります。明らかに運動する量が減りますし、破行(はこう)といって、片足を上げて歩く動作も特徴的です。
骨盤や背中、腰の骨を骨折した場合には、麻痺や排泄困難などの重い症状が見られることもあります。落下の場合は爪がボロボロになっていることで気付くことができる場合もあります(木にしがみついたり、アスファルトに爪を立てて踏ん張ろうとするため)。
外に出る猫や、仲がよくない猫との同居ではケンカをすることがあります。猫の歯や爪は非常に鋭く、ケンカにより傷を負うことがあります。また、噛まれると小さな穴が空き、皮膚の下に細菌が入り込みます。小さな穴なので 、身体はそれをすぐに塞いでしまいますが、皮膚の下では細菌が繁殖し、膿(うみ)がたまります。これが原因で発熱し、元気がなくなることもよく見られます。
病気ではなくとも、強いストレスがかかることが原因で、数日間〜数週間元気がなくなることもあります。
猫にとって、急な環境の変化は大きなストレスになりえます。引っ越しはまるきり環境が変わるため、慣れるまで大きなストレスを抱えることが多いです。見知らぬ人の来客などもストレスになるでしょう。また、新たな猫をお迎えした場合も、猫によっては強いストレスになることもあります。
これに限らず、猫にしか分からないストレスが隠れている場合もありますので、猫に元気がないときは、まずは直近でなにか環境に変化があったかを思い返してみましょう。
食事の変更は、精神的なストレスもあるかもしれませんが、身体にストレスを与える場合もあります。胃腸炎とまではいかずとも、いつもと違う食事が胃腸に影響を与えることがあるのです。変更する時は、徐々に新しいフードに変えていく と良いでしょう。
轟音が耳に入ることで、強くストレスを感じる猫もいます。夏のゲリラ豪雨やそれにともなうカミナリ、また花火もストレスになりえます。工事音も同様ですね。
避けることはできないですが、元気がなくなったときに関連づけて考えたほうがよい要因の一つです。
関連記事:猫のストレス解消方法|ストレスサインや原因についても解説
新たな薬を与え始めたとき、最初はその薬が合わないこともあります。また、個体によっては副作用が強く出てしまうこともあります。違うタイプのお薬に変更できる場合もあるので、獣医師と相談してみましょう。
手術のあとは、痛みなどにより一時的に元気がなくなってしまうことが多いです。また、大きな手術になるほど強い炎症が伴うため、しばらく活動量は低下しがちです。そうした場合には、数日入院することもあるため、自宅ではない環境の中で 過ごす時間のストレスも相まって、元気がなくなることが多いです。退院後も、エリザベスカラーや術後服、病院のニオイが原因で、一時的に同居猫との関係性が悪くなる場合もあります。
もちろん、急な元気消失が見られたら、なるべく早期に動物病院で診察を受けることが重要です。しかし、まずは一度立ち止まって、冷静に状況を見渡すことも大事です。
なぜなら「元気がない」だけでは考えうる可能性が広すぎるため、獣医師もポイントを抑えた診療がしにくくなるためです。どの病気でも起こり得るものでもあるからこそ、その他にどのような状況であるかをしっかり抑えて伝えることは、診療の大きな助けになってくれるはずです。
<急な元気消失の時にすべきこと3ステップ>
①直近でストレスがなかったかを確認
②ほかに症状が出ていないかを確認
③動物病院に連れていく
元気消失の原因のひとつに、ストレスがあります。まずは、数日から数週間の間に、猫に強くストレスがかかった出来事はないか、思い返してみましょう。
<ストレスのチェックリスト>
引っ越し
新しい猫をお迎えした
家族が増えた
慣れない来客があった
旅行に行った
気温が大きく変わった
食事を変更した
叱られた
自宅や近隣で工事が始まった
外で暮らす猫が家の周りをうろつき始めた
豪雨やカミナリが鳴っていた
花火大会など騒音が大きかった
動物病院に行って強いストレスを感じた
ここに挙げたもの以外でも、強いストレスを感じるような場面があったならば、その出来事と関係している可能性があります。逆に、「ストレスのせいだろう」といって安易に様子をみてしまうと、隠れた病気を見逃す可能性もあります。電話などでかかりつけの動物病院に相談しましょう。
もし、ストレスになりそうな原因が思い当たらないのに、急に元気が低下している場合には、念のため病気の可能性を考えるべきです。あらゆる病気で元気がなくなることを踏まえると、「どんな病気が隠れていそうか」のヒントを探しましょう。それが動物病院での診療時にも大きな助けになります。
ほかの症状は、その日のことだけでなく、過去1ヶ月くらいに起きたものも含めて構いません。できれば、メモ帳などにリストにしておき、いつから起きているのかなども追記しておくと有益です。メモがあれば、病院でもスムーズに説明することができるはずです。
<元気消失以外の症状チェックリスト>
食欲の低下
発熱の有無(触って確かめる、でも良い)
咳、呼吸のあらさ
嘔吐/下痢/軟便(隠れてしていることもあり)
腹痛や身体の痛み(触ると嫌がる場所)
体重の減少や増加
歩き方、走り方の違和感
トイレの回数の増減
おしっこの色の異常
意識状態の異常(ぼんやりしている、昏睡しているなど)
けいれん
上記以外にも、いつもとは違う気になる症状や行動はなかったかなどをできるかぎり思い出してみてください。
上記①〜②をチェックし、やはり病気が隠れていそうな気がするときは、できるだけ早期に動物病院に行きましょう。「元気がないだけで行っていいのかしら」と悩む場合は、まずはかかりつけ病院に電話をしてみるのも手です。
②の複数の症状があてはまり、現在もかなり状況が悪そうな場合には、夜中でも病院にかかる必要があります。まずはかかりつけ医に相談すると良いですが、夜で連絡がつかない時は、夜間救急病院に連絡しましょう。近年は全国的に夜間病院も増えています。事前に、一番近くの夜間救急病院を調べておくと良いでしょう。
首輪型デバイス「Catlog(キャトログ)」では、元気の低下についてお知らせする機能を搭載しています。ここでの「元気」とは、Catlogの計測する活動量や食事など複数の健康指標を総合的に解析し、元気を表す指標として表示しています。これが、一定期間の中で大きく減少した場合には、このアラートを受け取る場合があります。
前述の3ステップを参考にしながら、心配な場合や思い当たることがある場合には、かかりつけの動物病院にもご相談ください。
※このアラートは、何らかの理由でCatlogが正しく計測できなかった場合にも表示さ れることがあります。猫様の健康状態に問題がない場合は、Catlogが外れていないか、記録に誤りがないか等をご確認ください。
※Catlogシリーズは、動物の疾病の診断、治療もしくは予防に使用するものではなく、医療機器ではありません。本アラートを参考のひとつとしていただき、ご自身の判断で動物病院にご通院等いただくようお願いします。
猫の「急な元気の低下」についてご紹介しました。とても一般的で、原因を特定しがたい症状ですが、ほとんどの病気で最初に出てくる症状でもあることから、実はとても重要な指標です。元気がないかもしれないと思ったときは、遠慮せずに動物病院に相談しましょう。それが早期発見につながるかもしれませんし、何も異常がなかったとすれば、それはハッピーなことです。ぜひ本記事がご愛猫様の健康の助けになれば幸いです。
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ライター
猫様のいる暮らし編集部
2匹の猫様と一緒に暮らしています。無防備になったお腹に顔をうずめ、猫吸いをさせていただくのが至福の時間。 猫様との暮らしにまつわる情報をお届けします。