株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
猫とできるだけ長く一緒に過ごすには、腎臓病の進行を遅らせるための対策が欠かせません。なかでも食事の対策が有効とされ、飼い主が正しい知識を持つことが重要です。
どのような食事が腎臓病の猫に適しているのかや話題の「AIM」などについて解説します。
監修した専門家
株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
アリアスペットクリニック 院長 / 臨床獣医師
神奈川県の地域中核病院でジェネラリストとして経験を積みながら、学会発表も行う。2019年アメリカ獣医内科学会で口頭発表。アニコムホールディングスに入社後は#stayanicomプロジェクトの中心メンバーとしてコロナ禍のペット救護に当たる。2020年から現職。得意分野は運動器疾患、猫使い(使われ)。
動物病院勤務 獣医師
獣医師。公務員獣医師として家畜防疫、牛の改良繁殖に携わる。その後はアミカペットクリニック、アカデメイア動物病院にて小動物臨床に従事。株式会社RABOにてWebコンテンツの監修も行っている。
結論から言うと、慢性腎臓病には病院で処方される療法食がベストです。慢性腎臓病は非常に複雑な病態(病気のメカニズム)で起こります。
そのため、カロリーはもちろん、タンパク質、塩分、リン、カルシウムなどの調整が重要です。
しかし、市販されている一般食は、あくまで健康体の猫への食事として最適化されています。そのため、こうしたフードの栄養素組成は腎臓にフィットしたものではありません。
これらの療法食は、ロイヤルカナン社やヒルズ社などから発売されており、動物病院の獣医師による処方で購入することができます。
慢性腎臓病とは腎臓がうまく働かなくなる病気のことです。まずは猫と腎臓、そして腎臓病の関係について解説します。
腎臓は、血液中の老廃物や水分、取り過ぎた塩分などを濾過し、尿として排出するための臓器です。左右に1つずつあり、空豆のような形をしています。
なんらかの理由で腎臓の構造や機能に異常が生じて、うまく働かない状態を腎臓病といいます。
不要なもの(老廃物など)が身体に残り、必要なもの(主に水分)が捨てられてしまうことで、さまざまな症状が現れます。
腎臓病には慢性腎臓病と急性腎臓病があります。
慢性腎臓病は腎臓の機能がゆっくり低下していく病気ですが、急性腎臓病は腎臓が急激なダメージ(腎臓に害のある食品、薬品、植物の摂取や尿路閉塞など)を受けて、おしっこをほとんど作れなくなる病気です。
慢性腎臓病は猫特有の病気というわけではありませんが、猫は慢性腎臓病に非常にかかりやすく、15歳以上の猫の81%が慢性腎臓病を患っているという調査結果があります。
さらに、「これをしていれば大丈夫」という確実な予防法もないのが実情です。
関連記事:猫の慢性腎不全(慢性腎臓病)を獣医師が徹底解説。治療費や注意したい猫種、原因や治療法もご紹介
腎臓の組織は一度壊れると元に戻すことができません。
慢性腎臓病になって腎臓の大半が機能を失うと、根本的な治療は難しく、病気の進行を遅らせる治療が選ばれます。そのため、いかに早く病気の兆候に気付き、治療を開始できるかが重要です。
慢性腎臓病は悪化すると死に至る病気です。
アニコム損保の調査によると、猫の死亡原因のトップは、慢性腎臓病です。
逆にいえば、慢性腎臓病への対策をしっかりおこなえば、家族の一員である猫と一緒に過ごせる時間を、少しでも延ばすことができるかもしれません。
猫が健康でいるうちに、積極的に腎臓病のことを知り、対策に取り組めると良いですね。
慢性腎臓病の難しいところは、発見が難しいという点。初期の段階では症状があまり出ず、発見が遅れることも多いのです。
この章で解説するような症状が見られたら、慢性腎臓病のサインかもしれません。
<慢性腎臓病の主な症状>
・多飲多尿
・食欲不振
・体重減少
・嘔吐
・元気消失
など
最初に現れやすい症状は、尿が増え、水をよく飲むようになるというものです。また、尿の色は薄くなり、ニオイがしなくなります。
この症状には、腎臓の重要な働きである「尿の濃縮」が関係しています。腎臓は老廃物を尿として捨てるとき、失う水分は少しで済むように、水分だけを再吸収して濃縮します。
この機能が弱まると、尿が薄いまま大量に出てしまうのです。
そのため、脱水傾向となり、よくお水を飲む症状も同時に現れます。これを、多飲多尿といいます。
血液検査での異常もみられます。BUN(血中尿素窒素)やCre(クレアチニン)などが上がります。一般的にこれらの検査項目は、健康診断の時にもチェックするはずです。
この段階ではまだ元気であることが多いのですが、実は腎臓の機能は既に7割以上が失われています。腎臓は、調子の悪さを表にしにくいので、気付いた時にはかなり病気が進行していることがあるのです。
さらに症状が進むと、食欲がなくなり、嘔吐が増えることがあります。ゆるやかに体重が減少し、毛艶が悪くなったり、「なんとなく調子が悪い」という状態が続きます。
この段階になると明らかに病的な症状が見られるようになります。
さらに悪化すると、尿毒症と言われる状態に進行します。末期に見られやすい状態で、食欲がほとんどなくなり、激しい嘔吐や下痢などの症状が見られます。
口臭が強くなるといった変化もおこります(アンモニア臭がすると表現されます)。
これらの症状は、尿として排出されるべき有害物質が体内にたまるために起こります。重度の脱水や循環不全、貧血、けいれんなども起こり、重篤な状態になります。
一度壊れた腎臓の組織は元に戻りません。このため、慢性腎臓病はいかに早く発見するか、そしていかにそれ以上腎臓の機能を落とさないかが重要といえます。
慢性腎臓病の発見や、進行を遅らせるための方法について解説します。
腎臓の異常は、体の外からではわかりにくいことが多く、発見は難しいものです。毎年の健康診断は欠かさず受けましょう。特に、シニアと言われる7歳以上では、年2回の健康診断も推奨されています。
慢性腎臓病の対策で最も重要なのは、初期症状を見逃さないことです。典型的な症状である「水を普段より多く飲む」「大量に排尿する」といった症状が見られたら、すぐに獣医師に相談しましょう。
具体的には飲水量なら体重1kgあたり100ml/日以上、おしっこの量なら体重1kgあたり50ml/日以上が目安です。
正確に計測できない場合でも、「水飲み場に行く頻度が増えた」「ペットシーツの交換頻度が増えた」など、いつもと違うところを記録しておきましょう。
長い時間をかけて進行するので、毎日計測するというよりは、3-6ヶ月ごとに 測ってみるでも構いません。
毎日おしっこの量は測れない方や、普段家にいないことが多い方には、Catlogシリーズがおすすめです。自動的に飲水の回数や尿の量を記録し、過去と比較できます。
積極的に猫の体調を管理するようにしてください。
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慢性腎臓病と診断されたら、進行を遅らせるための対策が重要です。まずは腎臓に負担をかけないようにする食事療法に取り組みましょう。
食事療法は、腎臓に最適なバランスが整えられている療法食を選択するのがベストです。タンパク質・リン・ナトリウムの量が制限されている食事に切り替えることにより、腎臓病にかかっている動物の生存期間が大幅に延長するという報告もあります。
慢性腎臓病の猫のための食事については、後ほど詳しく解説します。
慢性腎臓病では脱水症状が起きやすいため 、水をたくさん飲むことが非常に大切です。
猫は元々あまり水を飲まない動物(あまり飲まなくても生きていけてしまう動物)でもあり、どうしても飲水量を確保しにくいですよね。意図的にでも、猫が水を飲みやすい環境を整えるようにしてください。
たとえば水飲み場を増やす、容器を変える、新鮮な水に頻繁に交換するといった工夫が挙げられます。水分を多く含むウェットフードもおすすめです。それぞれの猫にあわせた環境を作ってあげてください。
関連記事:猫が上手に水分補給できる方法|水を飲まないときの対処方法も紹介
症状がさらに進んだ場合、猫の状態に合わせて点滴や薬の投与を検討します。点滴(皮下点滴)は脱水状態を改善するために、水分を補給する目的でおこなわれるものです。
比較的猫にも負担が少ない上に、しっかりと水分補給ができるため、よく使われる手法です。
薬もあります。先述の通り一度壊れた腎臓は元に戻らないため、腎臓を治療するというよりも悪化を防ぐ、負担を軽くするといった効果のあるものが使われます。
たとえば以下のような薬です。
<慢性腎臓病で使われる薬>
・血圧降下剤(血管拡張剤)
・タンパク尿を抑制する薬
・腎臓の線維化を抑える薬
・リンの吸着剤
・毒素を吸着して排出させる薬(活性炭)
・貧血に対する薬(エリスロポエチン製剤)
・胃潰瘍を抑える薬(胃酸分泌抑制剤、胃粘膜保護剤など)
人間の腎臓病の場合は人工透析がおこなわれますが、猫の場合はあまり行われません。
数時間の間安静にするのが難しく、週に何度も通院することも負担になり、かつ人工透析はかなり高額になることから治療が選択されづらく、動物病院でも透析を行う機器を持たない場合も多いためです。
慢性腎臓病の猫にとって重要な食事療法について、詳しく解説します。
第1選択肢としては動物病院で購入できる腎臓病専用の「療法食」です。ほかにも腎臓に配慮した市販フードもありますが、あくまで一般食であり、療法食ほど緻密に設計されているわけではありません。
手作りをご希望される家族もいらっしゃいますが、必要な栄養素をバランスよ く与えることは非常に難しいため、十分な配慮が必要です。
腎臓は、身体にとって必要なものと不要なものを分け、不要なものを捨てるという基本的な機能があります。必要なものも不要なものも、その元となるのは「食事」です。
食事の成分には、腎臓に直接ダメージを与えるものもあれば、腎臓が捨てきれないことで身体に溜まり、結果として全体に悪影響を与えてしまうものもあります。
こうした身体のバランスと腎臓の保護のためにも、食事は薬と並ぶ(またはそれ以上に重要な)くらい気にする必要があるのです。
これを「食事療法」といいます。
腎臓病の場合、基本的には動物病院で処方される療法食を使用します。
療法食とは、病気にあわせて栄養成分の量や比率が調整された、病気をもつ猫のための特別なキャットフードのことです。医薬品ではありませんが、通常、動物病院でしか買うことができません。
慢性腎臓病の猫向けの療法食も数多く販売されており、栄養バランス を維持しながら病気の進行を抑えることが期待できます。
療法食というと、美味しくない、バリエーションも少ない、といったネガティブなイメージがある方も多いかもしれません。
でも安心してください。最近では、腎臓病用の療法食はたくさんのラインナップがあり、フィッシュテイストからチキンテイスト、粒の大小、ウェットタイプやドライタイプなどたくさんの中から選べます。
ぜひ好みの味を獣医師とも相談してみてください。
ただ、療法食は美味しさよりも健康を重視したフードです。どうしても食いつきが悪いということもありますよね。
そういう場合には、徐々に切り替えるのがおすすめです。初日は1割だけ療法食を混ぜ、翌日は少しだけ増やして、、、といった具合に2週間ほどかけてゆっくりと(バレないように)変えていくと、多くの猫が食べて続けてくれます。
それでもうまくいかない場合は、他のラインナップや、メーカーの変更も考えましょう。
獣医師と相談しながら工夫して切り替えるようにしてください。食欲が落ちた猫のために、さまざまな味、工夫がされた療法食が販売されています。
手作りの食事を食べてもらいたいという場合は、(獣医師としてはあまりおすすめはできないものの)先述の通りタンパク質・リン・ナトリウムなどの量に注意する必要があります。
例えばタンパク質を制限すると必要なカロリーを摂取するのに炭水化物や脂質が多く必要となり、結果的にバランスが悪くなったり、ミネラルが不足したりとかなり厳密な計算が必要になります。
最近では「腎臓病用の猫食事の作り方」を紹介するサイトや本も多くあるので、参考になるかもしれません。
ただし、信憑性の低い内容や、かえって腎臓への負担を大きくしてしまう内容が書いてある記事も実は多くあります。かかりつけの獣医師に相談したうえで検討しましょう。
CatlogのLINE公式アカウントでは、病気や暮らしのことまで、LINEで無料相談 受付中です。
下記のように、飼い主様のお悩みやピンポイントに知りたいことに獣医師や猫のスペシャリストが丁寧に回答いたしますので、お気軽にご相談ください。
<相談の例>
・腎臓病と診断されたらどんなご飯をあげればいい?
・膀胱炎になったら、トイレの回数を知っておくことは大事?
・子猫を迎えて最初に用意しておくべきものは?
・ごはんを食べてくれないけど、どうしたらいい?
・太ってきたと言われたけど、ダイエットが難しい
<LINE公式アカウントはこちら>
最近、猫の慢性腎臓病に対して効果があるとされる「AIM(エーアイエム)」が注目され、さまざまなメディアで話題になっています。このAIMがどのようなものなのか、解説します。
AIMとは「Apoptosis Inhibitor of Macrophage」の略で、体内のゴミを掃除する役割を持つタンパク質のことです。腎臓に障害が起こると、死んで剥がれ落ちた細胞によって腎臓のなかの細い管(尿細管)が詰まってしまいます。
AIMはこの詰まった老廃物やゴミにくっついて「目印」の役割を果たし、詰まりを解消する役割を担っています。
猫はこのAIMが先天的に機能しないため、詰まりが解消されず、次第に腎機能が悪化してしまうのです。
これを解決するために、猫のAIMを活性化させるというフードや、治療薬として投与するAIM製剤が研究・開発されており、新たな腎臓病予防・治療薬としての可能性が期待されています。
※出典:PRTIMES「腎不全ネコへのAIMの治療的効果を確認する臨床試験研究の共同研究開始のお知らせ」
AIM活性化物質を含んだキャットフードを1週間食べ続けた猫での調査では、血中のAIMが数%活性化したというデータが得られています。
数%であっても大きな進歩です。さらに研究が進むことで、より大きな効果も期待できます。
まだ慢性腎臓病にかかっていない若いうちから長期的に摂取することで、腎臓病の予防に役立つかもしれませんし、軽症であれば進行を遅らせることが期待できるでしょう。
猫の寿命が倍になるとは限りませんが、ある研究によると、泌尿器疾患がなければ猫の寿命は1.6歳延びるというデータもあります。
たったこれだけ、と思われるかもしれませんが、泌尿器疾患とは関係のない病気(ガンや心臓病や老衰など)を含めた中での1.6歳なので、印象以上のインパクトがあることでしょう。
AIM活性化物質を含んだキャットフードを食べさせることでより長い間猫と一緒に暮らせるかもしれません。猫を愛するすべての方にとって朗報ですね。
※出典:日獣会誌「動物病院カルテデータをもとにした日本の犬と猫の寿命と死亡原因分析」
このAIM活性化物質を含む食事は発売中であり、一般の方も購入することができます。ただ、慢性腎臓病向けの療法食として販売されているものではありません。
すでに慢性腎臓病にかかっている猫の場合は、フードを切り替える前に獣医師に相談しましょう。
AIM活性化物質は、あくまで腎臓病の予防効果や、ごく初期であれば進行を抑制する効果が期待されているものです。
壊れた腎臓を元に戻すほどの効果は(今のところ)期待できません。「AIM活性化物質を含んだキャットフードを与えているから安心!」と考えるのではなく、あくまでも病気の早期発見・早期治療を第一に考えましょう。
いずれAIMが治療薬として開発された時にも、腎臓へのダメージが軽度なうちに治療を始められるかどうかは、重要なポイントになると考えられます。
日頃から猫の様子を観察したり、尿の量や体重の変化を記録する習慣をつけておきましょう。
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ライター
小川 篤志
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。