イリオモテヤマネコの研究で博士号(琉球大学大学院理工学研究科)を取得。イエネコに世界で初めてデータロガーを付けたことが自慢。南極のペンギン類からアフリカのチーターの研究などを経て、現在は、瀬戸内海に棲むさまざまな動物を対象にバイオロギング研究を続けている。RABOでは、動物研究者の目線から機械学習チームの開発をサポートしている。
Catlog総研 第14回レポーティング! 猫様にも「食欲の秋」は存在する!?体重の季節性変化とその要因
暑い夏も終わり、過ごしやすい季節になってきました。「食欲の秋」という言葉がありますが、これは秋の実りや過ごしやすい気候が私たちの食欲に影響を与えるという意味が込められています。この時期は、私たちには体重増加に要注意の時期でしょう。このように猫様も季節的な食欲の変化に応じて体重が増減するのでしょうか?
第12回レポーティングでは、猫様の食事回数が夏に大きく減少することが示されています。また、飼い主さんを対象としたアンケートの結果から、人間と同様に、猫様でも気温が大きく上昇する夏に食欲減退が見られることが考えられます。この時期に猫様の体重は減少するのでしょうか?今回のレポーティングでは、猫様の体重が季節的にどのように変動するのかとその要因を探ります。
監修した専門家
博士(理学)。京都大学大学院理学研究科生物科学専攻を修了後、製薬会社にて研究職(非臨床安全性評価)に従事し、2023年4月にRABO入社。これまでに、神経科学及び毒性学領域(主にin vivo)での画像、行動、及び生体データを対象とした統計解析及び機械学習の技術開発を経験。猫様も好きだし、サルも好き。
1年間で猫様の体重はどの程度変わる?年齢別の変動率を比較!
まず、2023年10月から2024年9月までの一年間で、Catlog Boardによる毎月の体重と排泄量、Catlogによる毎月の行動データが得られている約3300匹のデータを分析しました。計測期間の中間にあたる2024年3月時点の年齢を7段階のクラスに分けています。
※図14-1. 性別・年齢クラス別の体重の年間変動率。体重の増減の要因の分析は2-9歳の猫様を対象に行いました。
各個体で毎月の体重の中央値を算出し、年間の体重の変化が平均値に対してどの程度かを年間変動率(%)として、性別・年齢クラスごとにその中央値を比較しました(図14-1)。年間変動率とは、たとえば年間を通じた平均体重が3.0kgの猫が、最も軽い月で2.7kg、最も重い月で3.3kgだった場合、体重差は0.6kgとなるため、年間変動率は0.6 ÷ 3.0kg × 100 = 20%となります。年間変動率を年齢クラス間で比較した結果、雌雄共に0歳の猫様の変動率が40%を超えて著しく高く、1歳と10歳以上の猫様も7-10%と比較的高いことがわかりました。
第6回レポーティングでは子猫の体重増加について調べた結果が示されていますが、成長期の2歳未満の猫様では体重が増加傾向にあるのだと考えられます。また、10歳以上の老齢個体では健康上の理由から体重の変動が大きいのかもしれません。今回は、これらの猫様を除いて、年間の体重の変動が6-7%と比較的安定していた2歳から9歳までの猫様を対象にさらに詳しく分析しました。
体重と食事や活動、排泄の季節性
今回、体重の変動に影響を与えそうな要因として、食事回数・排泄量・運動時間・睡眠時間の変動と比較しました。体重やこれらの要因は、猫様ごとに平均値とばらつきの程度が異なるため、猫様ごとに平均を0、ばらつきの程度を示す標準偏差を1となるように標準化という処理を行いました。また、解析の結果、体重の変動には性別と年齢クラスの影響はみられなかったことから、すべての猫様のデータを月ごとに集計した結果を示しています。
体重の月変化
※図14-2. 体重の月変化。各個体で標準化した体重の毎月の中央値を示しています。
各個体の体重の毎月の中央値を12ヶ月間で標準化した体重スコアを月毎に算出しました(図14-2)。その結果、7月から9月にかけて体重が急激に増加し、10月以降に減少傾向がみられました。このような体重の増減には、食欲やエネルギー代謝の季節的な変化が関係すると考えられます。
ヒトの場合、季節の変化が食欲やエネルギー代謝、体組成に及ぼす影響が確認されています。日本の若年女性を対象にした研究(文献1)によれば、気温が上昇する夏には基礎代謝量が約20%低下し、食事摂取量が25%減少します。一方、冬には活動量が減少することで脂肪が蓄積しやすくなります。これにより冬に体重が増加しやすいことが明らかになっています。猫様の場合、体重が増加する夏から秋に摂餌量が増える、あるいは代謝又は活動量が低下するために脂肪が蓄積しやすくなり体重が増えることが考えられます。
食事回数と排泄量(うんちの重さ)の月変化
※図14-3. 食事回数(上)と排泄量(下)の月変化。各個体で標準化した食事回数と排泄量(うんちの重さ)の毎月の中央値を示しています。
第12回レポーティングの結果では、体重が増える夏に食事回数が減り、食いつきが悪くなることが示されています。今回の猫様においても、食事回数の月変化を算出したところ、やはり7月から9月に食事回数が大きく減少しました(図14-3上)。しかし、10月以降に食事回数が増加傾向にあり、これが10月の体重増加に影響しているのかもしれません。どうやら猫様にも「食欲 の秋」は存在するようです。
夏に食事回数が減ることから食いつきが悪くなると考えられますが、実際の摂餌量とは相関がないのかもしれません。そこで、Catlog Boardのデータから排泄量(うんちの重さ)を算出して、その月変化を調べました(図14-3下)。その結果、排泄量も夏にかけて減少しており、摂餌量が増えたために体重が増加したわけではなさそうです。
運動時間と睡眠時間の月変化
では、活動量は季節的に変動するのでしょうか?月毎の運動時間と睡眠時間を調べたところ、春から夏にかけて運動時間が短くなる一方で、睡眠時間は夏に長くなり、体重の変動と類似した年変動を示しました(図14-4)。
※図14-4. 運動時間(上)と睡眠時間(下)の月変化。各個体で標準化した運動時間と睡眠時間の毎月の中央値を示しています。
寝る子は太る?それぞれの要因が体重変化に及ぼす影響
次に、今回分析した各要因(性別・年齢クラス・食事回数・排泄量・運動時間・睡眠時間)が体重の変動へ与える影響の度合いを一般化線形混合モデルという統計手法で比較しました。その結果、運動時間と睡眠時間が体重の変動に影響を与えていることが示されました。
※図14-5. 運動時間(左)および睡眠時間(右)と体重の変動の関係。各個体で標準化した運動時間・睡眠時間・体重の中央値をもとに一般化線形混合モデルから得られた回帰式を直線で示しています。
運動時間および睡眠時間と体重との関係を示すと、ばらつきは大きいものの運動時間が短く、睡眠時間が長くなるほど緩やかに体重が増加する傾向がみられました(図14-5)。以上の結果から、大人の猫様では夏に活動量が低下することで、平均して7%ほど体重が増加すると考えられます。
夏は代謝が下がるので、Catlogで体重と活動量をチェック!
猫様の摂餌量の季節変化については、フランスとイギリスの研究チームが行った研究(文献2)が報告されています。この研究では、自由に給餌された38匹の猫様の摂餌量を6年間追跡し、季節ごとの摂餌量の変化が詳細に記録されています。その結果として、冬の1月から2月にかけて摂餌量が増加し、夏の6月から8月にかけて約15%減少することが確認されました。この変動は、日照時間や気温の変化が猫様のホルモンバランスに影響を及ぼし、エネルギー代謝や摂餌量の変動を引き起こ すためと考えられています。また、冬には体温を維持するためにエネルギーの消費が増える一方で、夏には代謝が下がり、摂餌量が減少する傾向があるようです。
本レポーティングでも同様に夏の代謝が下がることが示されました(図14-4)。一方、この研究(文献2)では、体重は年間を通じて比較的一定に保たれていたとされています。論文の著者たちは、この摂餌量の変化が体温調節や活動量の変化に応じたエネルギーの必要量に合わせた適応であり、体重の増減が最小限に抑えられている可能性があると考えています。
この研究が行われたフランス南部は地中海性気候に位置しており、冬は比較的温暖で湿度が高く、夏はかなり暑いものの乾燥した気候であり、日本の気候とはだいぶ異なるようです。また、38匹のうち30匹は自由に屋内外を行き来できる猫様であるため、体温調節やエネルギー管理における生理的適応が示された結果ではないかと考えられます。このような気候や飼育環境の違いが、今回のレポーティングとは異なる結果となっていることが考えられます。
日本では、古くは「猫はこたつで丸くなる」と言われ、冬に猫様の活動が減るものと考えられてきました。しかし、猛暑の続く現在の夏では、猫様はエアコンのきいた部屋に留まり、活動量が減って体重は増える。そして、気温が下がる秋になると、よく食べて、よく運動するようになるようです。今回の結果は、現在の日本における猫様の生活の変化を表していると考えられます。CatlogとCatlog Boardを併用して、1年を通じた活動量と体重の変化をモニタリングすることで、夏バテによる体力低下や運動不足による肥満の予防が期待できます。是非、皆様の愛猫ではどのようになっているか、比べてみてはいかがでしょうか?
すべては、猫様のために。
参考文献
文献1) Tanaka N et al. (2022) Relationship between seasonal changes in food intake and energy metabolism, physical activity, and body composition in young Japanese women. Nutrients 14: 506. https://www.mdpi.com/2072-6643/14/3/506
文献2) Serisier S et al. (2014) Seasonal variation in the voluntary food intake of domesticated cats (Felis catus). PLoS ONE 9: e96071. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0096071
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ライター
Catlog総合研究所
「Catlog」シリーズを利用いただいている猫様から取得・蓄積された行動ログデータや体重・排泄データなどを活用した研究機関。 猫様の行動や習性をよりよく理解するきっかけとなる研究データをお届けしてまいります。
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