イリオモテヤマネコの研究で博士号(琉球大学大学院理工学研究科)を取得。イエネコに世界で初めてデータロガーを付けたことが自慢。南極のペンギン類からアフリカのチーターの研究などを経て、現在は、瀬戸内海に棲むさまざまな動物を対象にバイオロギング研究を続けている。RABOでは、動物研究者の目線から機械学習チームの開発をサポートしている。
Catlog総研 第8回レポーティング! Catlog Boardから見る猫様の排泄リズム
本日8月8日は世界猫の日(International Cat Day)。2002年に国際動物福祉基金(IFAW)によって創設されたこの日は、世界中の猫様の心身の健康増進と福祉の向上に努めるための一日とされています。 これまでのCatlog総研では、Catlogで取得・蓄積された大規模な行動ログデータを広く横断的に分析することで、多くの猫様に共通する行動パターンや習性について紐解いてきました。このような分析とは対照的に、個々の猫様に焦点を当ててCatlogのデータを見つめ直すことで、それぞれの猫様の個性や普段の様子、暮らされている環境についてより深く理解することが可能です。このようなデータの見方を通じて、猫様それぞれの生活の質と幸福度の向上に資するような示唆を得られると考えています。 今回のCatlog総研は、猫様の健康を把握するために欠かせないトイレの利用に関するお話です。Catlog Boardで取得されたデータを分析し、猫様のトイレの利用時刻から各猫様の排泄リズムを比較しました。
監修した専門家
こんにちは、CatlogのMLエンジニャー / データサイエンティストのべーやん(@beeyan)です。夏休みシーズンに入り、旅行や花火大会といった楽しいイベントが盛りだくさんな反面、特にお子さんにとっては生活リズムが乱れがちな時期でもあります。今回のCatlog総研では、こういった生活リズムにまつわるお話をお届けします。
猫様も規則的にトイレを利用する?
我々の健康の維持や生活習慣病の予防のため、一定の生活リズムを維持し、規則正しい生活を送ることが大切です。この生活リズムの指標として、食事や睡眠のリズムに加えて、毎日決まった時間に排泄すること、つまりトイレを利用する時刻が規則的であることも重要です。ヒトでは食習慣の乱れや強いストレスは排泄活動を変化させ、悪化すると便秘や過敏性腸症の原因となり得ます。そのため、ご自身のトイレ利用時刻を把握しておき、その変化に気づくことで早期に適切な対応を行うことが、健康的な生活の維持に大切と言えるでしょう。
それでは、このようなトイレ利用時刻の規則性(排泄リズム)は猫様にも見られるのでしょうか?また、トイレ利用時刻は猫様によって共通するのでしょうか?Catlog Boardを利用することで、猫様の排泄物重量やトイレ回数だけでなく、猫様がトイレを利用した正確な時刻を記録することができます。
そこで今回は、Catlog Boardによって自動記録されたト イレデータを用いて、猫様毎にトイレ利用時刻について分析しました。
松丸亮吾さんのご愛猫、リド氏のトイレ利用状況を大公開!
まずは、Catlog Boardで収集した2ヶ月分のトイレデータから、トイレ利用時刻に規則性があるかを調べました。代表例として、Catlogの公式アンバサダーである謎解きクリエイター・松丸亮吾さんの愛猫であり、同CMO(Chief Meowketing Officer)であるリド氏のトイレ利用時刻を分析しました。図中上の散布図はリド氏のトイレ利用時刻を、縦軸に日付、横軸に時刻をとってプロットしたもの、また、図中下のヒストグラムは24時間中の1時間毎のトイレの利用頻度を集計したものになります。これをみると、リド氏の場合、朝6時から午後1時、そして夜の8時から深夜1時の間にトイレの利用が集中していました。このことから、リド氏は概ね規則的にトイレを利用していることが伺えます。
※(上)2023年4月1日から5月31日までのリド氏のトイレデータ(うんち及びおしっこ)を抽出し、縦軸に日付、横軸に時刻をとった散布図を描出。(下)同期間の午前5時から翌日5時までの1時間毎のトイレの利用頻度をヒストグラムとして描出。
他の猫様のトイレ利用も規則的?猫様間のトイレ利用時刻を比較!
このようなトイレ利用時刻の規則性は他の猫様でも見られるのでしょうか?また、猫様間のトイレ利用時刻にはどのような違いが見られるのでしょうか?これを調べるために、Catlog開発に協力いただいている社内メンバーの6猫様について、同様にトイレ利用時刻を分析して、猫様間で比較しました。その結果、リド氏で見られたようにどの猫様もトイレが集中する時間がある一方で、トイレ利用が集中する時間帯や集中の度合いは猫様によって大きく異なることが分かりました。例えば、ブリ丸氏やおでん氏は朝6時から7時に明確なピークがあり、午前中のその他の時間帯ではほとんどトイレを利用しませんでした。対照的に、ニル氏やオルカ氏はトイレの利用頻度が高い時間帯は見られるもののピークは明瞭でなく、概ねどの時間帯にもトイレを利用しました。
このようなトイレ利用時刻の規則性(排泄リズム)の個体差はどのようにして生まれるのでしょうか?飼い主の方々に伺ったところ、トイレ利用時刻に規則性のある猫様では「毎日決まった時間にご飯を食べている」、あるいは「飼い主の帰宅時間に合わせてトイレを利用することが多い」といった声が寄せられました。よって、ご飯をもらう時刻や飼い主さんの在宅状況や生活リズムが、猫様の排泄リズムに影響を与えているようです。猫様が規則的に排泄するためには、飼い主の皆様が一定の生活リズムを維持し、日頃から猫様の規則正しいケアを心がけることが重要だと考えられます。
※2023年4月1日から5月31日までの計6猫様のトイレデータ(うんち及びおしっこ)を抽出し、午前5時から翌日5時までの1時間毎のトイレ利用頻度をヒストグラムとして猫様ごとに描出。
同居猫様間でトイレ利用時刻を比較!
飼い主さんだけでなく、他の猫様が同居していた場合にも、トイレ利用時刻は影響を受けるのでしょうか?そこで、上の6猫様うち、2匹で同居しているブリ丸氏&おでん氏ペア及びニル氏&オルカ氏ペアについて、トイレ利用時刻を詳細に分析しました。いずれのペアもそれぞれ2台のトイレ(トイレA、トイレB)を利用しています。そこで、トイレ・猫様別にトイレ利用時刻を比較しました。まずブリ丸氏とおでん氏について、ブリ丸氏は主にトイレAを、おでん氏は主にトイレBをそれぞれ利用しており、いずれの猫様も各トイレを占有していることが分かります。互いに別のトイレを排他的に利用することで、同居する他の猫様の排泄リズムの影響を受けずにそれぞれが排泄していると考えられます。