猫様のいる暮らし - Life with Cats - すべては、猫様のために。
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Catlog総研 第13回レポーティング! 猫様のトイレの長さはどのくらい?トイレ利用時間から深掘りする排泄行動の個性1:性別・年齢間の比較

Catlog総研 第13回レポーティング! 猫様のトイレの長さはどのくらい?トイレ利用時間から深掘りする排泄行動の個性1:性別・年齢間の比較

Catlog総研
最終更新日: 公開日:

これまでのCatlog総研では、猫様のトイレ利用に関する様々なデータ分析に加えて、前回の第10回レポーティングでは、猫様のトイレ内での行動をトイレ環境の違いや猫様の個性と関連付けて、より詳しく分析した学術研究について調査しました。

こうした猫様の個性に関連する行動変化は、Catlogのデータでも確認できるのでしょうか?今回のレポーティングでは、Catlog Boardで得られたデータから、年齢と性別によって猫様のトイレ利用がどう変化するのかを検証します。


監修した専門家

渡辺 伸一

渡辺 伸一

イリオモテヤマネコの研究で博士号(琉球大学大学院理工学研究科)を取得。イエネコに世界で初めてデータロガーを付けたことが自慢。南極のペンギン類からアフリカのチーターの研究などを経て、現在は、瀬戸内海に棲むさまざまな動物を対象にバイオロギング研究を続けている。RABOでは、動物研究者の目線から機械学習チームの開発をサポートしている。

Soshi Tanabe(@beeyan)

Soshi Tanabe(@beeyan)

博士(理学)。京都大学大学院理学研究科生物科学専攻を修了後、製薬会社にて研究職(非臨床安全性評価)に従事し、2023年4月にRABO入社。これまでに、神経科学及び毒性学領域(主にin vivo)での画像、行動、及び生体データを対象とした統計解析及び機械学習の技術開発を経験。猫様も好きだし、サルも好き。


性別や年齢によってトイレ利用時間はどう変わる?

Catlog総研 第10回レポーティングでは、猫様のトイレ内での行動をより詳しく分析した学術研究について調査し、排泄行動がトイレ環境の違いや猫様の個性によって変化することがわかりました。

とくに興味深い知見として、授乳期の母猫は、排尿前に砂を掘り、排尿後に排泄物を砂で埋める行動に長時間を費やすことがあるそうです(文献1)。これは、母猫が尿の匂いを消して自身の存在を隠し、子猫を捕食者や他の雄猫などの脅威から守るためだと考えられています。

一方で、イヌ科やネコ科などの食肉目の多くは、雌雄ともに繁殖期には糞や尿を匂い付けとして利用し、自身の存在を他の個体に示すために利用することが知られています(文献2)。イエネコでも性成熟した雌雄がパートナーを探すためのコミュニケーションとして尿によるマーキングを行います(文献3)。そのため、発情した猫様は匂い付けのために排泄時間が長くなることが予想されます。

また、一般に高齢の猫様では腎臓、尿管、膀胱、尿道を含む泌尿器疾患(慢性腎臓病、膀胱炎、など)及び胃や腸を始めとした消化器疾患(下痢、胃腸炎、など)の発症リスクが増加することが知られています(文献4)。そのような猫様では、病状によってトイレ排泄時間が変化することが考えられます。

そこで、今回のレポーティングでは、猫様の性別や年齢によって、トイレ利用時間がどう変化するのかをCatlog Boardのデータをもとに検証します

Catlogで取得できる猫様のトイレ利用時間とは?

今回は、1歳以上の猫様を対象に2023年3月から2024年2月までの1年間、毎月のトイレ利用のデータが得られている約4300個体の猫様のCatlogデータを元に分析しました。なお、今回のデータ分析は飼い猫を対象としているため、猫様は基本的に不妊手術が済んでいると考えられます。

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※図13-1. トイレ利用時間の評価:排泄中の時間(排尿・排便時間)とトイレ内におけるその前後時間(排尿・排便前後時間)の長さを計測。

Catlog Boardでは、排尿(おしっこ)排便(うんち)を区別して、さらにトイレ内の行動を排泄にかかった時間とそれ以外の時間に分けて計測することができます。今回は、Catlogアプリから見ることのできる排尿・排便時間に加えて、排泄前と排泄後の時間を合わせた排尿・排便前後時間をそれぞれ計測しました(図13-1)。

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※図13-2. 排尿時間が比較的安定している猫様(上)と月によって変動する猫様(下)の例。排尿時間の中央値と最も長い月と短い月の差(月変動の大きさ)を個体毎に算出。

データ解析では、まず毎回の排便・排尿の時間とその前後時間を計測し、毎月の中央値を算出します。そして、得られた12ヶ月分のデータの中央値と値が最も高い月と低い月の差(月変動の大きさ)を算出しました(図13-2)。例えば、どの月でもトイレ時間が一定の猫様の場合(図13-2上)には月変動が小さくなり、反対に、特定の時期にトイレ時間が長くなる猫様の場合(図13-2下)には月変動が大きくなります。つまり、月変動が大きい猫様は、トイレ時間に季節性がある可能性が示唆されます。

加齢とともに排便時間は長くなり、排便前後時間は短くなる!

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※図13-3. 排便時間(上)及び排便前後時間(下)の中央値(左)と月変動の大きさ(右)の性別と年齢間の比較。

まず排便時間について性別と年齢間で比較します。雌雄ともに年齢に応じて中央値・月変動の大きさが徐々に大きくなることがわかりました(図13-3上)。排便時間は13歳までは雌の方が長いものの、14歳を超えると雄の排便時間が著しく長くなり、その関係が逆転しました(図13-3左上)。また、月変動の大きさも14歳を超える雄で著しく大きくなりました(図13-3右上)。

排便前後時間を年齢クラス間で比較したところ、雌雄ともに同じようなパターンが見られ、年齢とともに排便前後時間が短くなり(図13-3左下)、月変動も小さくなりました(図13-3右下)。

排尿時間は雄の方が長い!

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※図13-4. 排尿時間(上)及び排尿前後時間(下)の中央値(左)と月変動の大きさ(右)の性別と年齢間の比較。

排尿時間については、どの年齢クラスでも雄の方が中央値・月変動の大きさともに大きいようです(図13-4)。雌雄ともに14歳以上の年齢クラスで中央値が若干長く(図13-4左上)、月変動の大きさは雌雄ともに年齢クラス間で大きな差はありませんでした(図13-4右上)。

排尿前後時間については、雌雄間で中央値に差はなく(図13-4左下)、排便前後時間と同様に雌雄ともに年齢に応じて短くなり、月変動の大きさも小さくなりました(図13-4右下)。

疾患や年齢に応じたトイレ利用時間の変化

過去の比較(図4-4)においては、排便時間は雌雄で差はありませんでしたが、全年齢の猫様を体重クラス別に分けて、その中央値を雌雄で比較したものでした。今回の結果では、性別と年齢クラス別に比較することで、加齢とともに排便時間が長くなり、さらに高齢の雄で著しく長いことが明らかになりました。

排便には食べ物を消化して吸収するための消化器官の働きと、それを直腸から排泄するための神経や筋肉の働きが必要です。高齢の猫様ではこれらの機能が衰えて、スムーズに排泄が行われずに排便時間が長くなるのかもしれません

また、便秘や大腸拡張症などにより排便が困難な猫様の割合を調べた調査によると、雄が全体の7割を占めていたという報告があります(文献5、図13-5左)。この報告の中では、雄に排便が困難な猫様が多い理由は明らかではありませんが、ホルモンの違いや生殖器系の構造の違い、あるいは行動的な違いなど、さまざまな要因が考えられます。このような要因から、高齢の雄に排便が困難な猫様が多いため、排便時間が長くなるのかもしれません。

排尿時間についても、雌雄ともに高齢の年齢クラスで最も長くなりました。泌尿器系疾患のひとつに慢性腎臓病(CKD)が挙げられます。CKDの有病率は年齢とともに増加し(文献6、図13-5右)、15歳以上の猫様では、30〜50%がCKDを患っているという報告があります(文献7)。高齢の猫様では、こうした健康上の問題を抱えた猫様が多いため、排尿時間が長くなるのかもしれません。

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※図13-5. 文献5の結果を元にした排便が困難な猫様の性別別割合、及び文献6の結果を元にした腎不全を発症した猫様の年齢別割合。

排便・排尿時間は若い猫様で短い一方で、それらの前後時間は長く、月変動が大きくなりました。今回の調査対象となった猫様は飼い猫であるため、基本的に不妊手術済みと考えられます。そのため、発情による影響は野生と比べると小さいと予想されますが、不妊手術をした猫様でも、雄の約10%、雌の5%が、発情に伴う尿スプレーによるマーキングを頻繁に行うことが報告されています(文献8)。よって、若い猫様で排尿前後時間が長いことから、砂掻きや臭い付けなど発情に伴うマーキングに関連する行動が含まれることが考えられます。

トイレ利用時間データを活用して猫様の排泄行動の変化をチェック

今回の調査により、高齢の猫様では排尿と排便に時間がかかり、とくに雄の排便時間が著しく長くなることがわかりました。今後、排泄時間の変化をモニターすることにより、泌尿器疾患や排泄が困難になる猫様を早期に発見することができるかもしれません。また、今回見てきたように、トイレ利用時間の変動についてCatlog Boardを使ってモニターすることにより、発情に伴うマーキング行動の検出等できるかもしれません。

トイレ利用時間の季節変化や個体差の要因を明らかにするためには、猫様の健康状態に関する情報を収集して、その個体の特徴を把握する必要があります。また、排泄前後の時間を分け、さらに砂掻きと匂い嗅ぎの行動を区別して計測することで、繁殖行動としての排泄行動の役割をさらに明らかにすることができるかもしれません。今後も、イエネコに関する既存の研究を調査するとともに、Catlogのデータを分析して猫様の行動や生態の謎に迫りたいと思います。

引用文献

  1. Ferreira GA, Meneguello Lí, Genaro G. 2024. Elimination behavior in the female domestic cat: Burying and smelling - Implications for chemical communication. App Ani Beh Sci. 270:106140. doi: 10.1016/j.applanim.2023.106140. 

  2. Macdonald DW. 1980. Patterns of scent marking with urine and faeces amongst carnivore communities. Symp. zoo. Soc. Land. 45: 107-139.

  3. Horwitz DF. 2019. Common feline problem behaviors urine spraying. J. Feli. Med. Surg. 21: 209-219.

  4. アニマルメディア社(編). 2023. アニコム家庭どうぶつ白書2023. アニコムホールディングス株式会社.

  5. Washabau R. 2001. Feline constipation, obstipation, and megacolon: prevention, diagnosis, and treatment. World Small Animal Veterinary Association World Congress Proceedings.

  6. Reynolds BS, Lefebvre HP. 2013. Feline CKD: Pathophysiology and risk factors — what do we know?. J. Feli. Med. Surg. 15: 2-52.

  7. Grauer GF. 2015. Feline chronic kidney disease. Today's Veterinary Practice: March/April 2015.

  8. Hart BL, Cooper L. 1984. Factors relating to urine spraying and fighting in prepubertally gonadectomized cats. J Am Vet Med Assoc: 184:1255-1258.

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ライター

Catlog総合研究所

Catlog総合研究所

「Catlog」シリーズを利用いただいている猫様から取得・蓄積された行動ログデータや体重・排泄データなどを活用した研究機関。 猫様の行動や習性をよりよく理解するきっかけとなる研究データをお届けしてまいります。


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