家に帰ると出迎えてくれて、夜は隣で寝てくれて。人間のパートナー?マーチ以上の相手なんているかしら(エスムラルダさん/ゲイ・ドラァグクイーン)
ゲイでドラァグクイーンとしても活躍するエスムラルダさん。周囲の勧めで猫 との暮らしを決め、保護猫マーチを引き取って始まった”2人暮らし”は、ハプニングと感動の連続だといいます。「無償の愛」に気づいたというエスムラルダさん、マーチ君のエピソードを聞きました。
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エスムラルダ
文筆業のかたわら、ドラァグクイーンとしてイベントや舞台で活躍するエスムラルダさん。セクシュアリティはゲイ男性。新宿二丁目発の本格DIVAユニット「八方不美人」のメンバーとしても活動。
真っ白でふわふわな毛並みに顔の黒い模様がかわいいマーチくんとふたりで暮らしているのは、イベントやメディアでドラァグクイーンとして活躍するエスムラルダさん。「実家を出て一人暮らしを始めてから、はじめて誰かと一緒に暮らした相手が猫のマーチ」というエスムラルダさんに、マーチくんとの出会い、マーチくんに対する思いをお聞きしました。
なかなか踏み切れなかった猫との暮らし
ドラァグクイーンとして活動しはじめたのは大学生のとき。友人主催のイベントで、ノリと勢いで女装をしたのをきっかけに、エスムラルダという名でイベントやメディアなどに出演するようになりました。ドラァグクイーンにもいろいろなタイプがあって、ワタシはどちらかというとバラエティ系。ドラァグクイーンというと女性歌手の歌に合わせてショウをするリップシンクショウが一般的ですが、ワタシは主に血糊を吐き出したり生首を飛ばしたりするようなホラー仕立てのショウや、マジックなどを取り入れたお笑いショウをしてきまし た。2018年には「八方不美人」というユニットを組んで歌手としてもデビューし、男に棄てられた女の恨み節ソングなどを歌っています。
マーチをお迎えして1年半くらいになりますが、その直前まで自分が猫と暮らすことになるとは思っていませんでした。まわりには猫を飼っている人が多く、SNSやYoutubeなどでかわいい猫動画を観るたびに「いつか猫を飼いたいな」と漠然と思ってはいたのですが、仕事柄、遠くに出かけることも多いし、家には楽器や観葉植物もあるし、何より生き物の命を預かることへのためらいがあって、実際に猫と暮らす決心ができずにいたんです。
ところが、2022年の冬に、ある女性のシンガーのお友達から「猫の保護活動をしている知人のところに、エスムさんに合いそうな猫ちゃんがいるから、ぜひ会って欲しい」と言われ、マーチに会うことに。猫を飼うならなんとなく茶色いトラネコかなぁとイメージしていたので、白 い長毛で顔に黒い斑のあるマーチは、最初はあまりピンときませんでした(笑)。でもせっかくのご縁だし、「トライアル飼育もできますよ」ということだったので、2022年の年末に迎え入れることになりました。
実家でもペットを飼ったことがなかったので、猫の飼い方がまったくわからず、本やネットでいろいろと調べました。「猫ちゃんをお迎えしたときは、一気に距離をつめようとしてはいけない」と書かれていたので、最初のうちは、粛々とご飯とトイレのお世話だけしたり。でも、数日たっても、私が家にいる時は全然ケージ内のキャットハウスから出てきてくれず、距離が縮まる気配がなくて。心配になって保護主さんに連絡したところ、「お渡しした、マーチお気に入りのブラシを、ケージの前で揺らしてみてください」と言われ、その通りにしてみたら、すぐに出てきて「撫でろ撫でろ」状態に。マーチも本当は甘えたかったのに、私がそっけなかったので、すねていたみたいです(笑)。本やネットの情報はあくまでも一般論であって、全猫に あてはまるわけでもないんだなと思いました。
あと、実家を出てから30年近く、ずっと一人で自由気ままに暮らしていたので、家に自分以外の存在がいることに慣れず、ストレスを感じることもありました。たとえば、最初のうちは猫の生態もマーチの性格もよくわからなかったので、私の目が届かない夜中や外出時にはマーチをケージに入れていました。すると毎晩、マーチが「出せ、出せ」とケージをガタガタ揺するんです(笑)。マーチが危ないことをしないとわかってからは、まったくケージに入れなくなったんですが、私自身が一人寝に慣れきっていて、自分以外の存在がいると熟睡できない気がしたので、夜になるとマーチの目を盗んで寝室に入るように。するとマーチが、今度は毎晩寝室のドアを「入れろ、入れろ」とガタガタ揺する。「このままだと、睡眠不足で死ぬ」と思いました(笑)。でも、ある風の強い夜に「マーチ一人だと怖いかな」と思い、寝室に入れたのを機に、一緒に寝るように。そのあたりからマーチの情緒が少しずつ安定してきて、ワタシも熟睡できるようになりました。「マーチ、ずっと一緒に寝たかったんだな」「最初の頃はかわいそうなことをしたな」と申し訳なく思います。
今は毎晩、ワタシが「そろそろ寝るよ」と声をかけ、リビングの電気を消して寝室に入ると、マーチもおもむろについてきます。そして、お気に入りのクッションを踏み踏みしたあと、ワタシの枕元とか左わきのあたりにしばらく滞在してから、自分の好きな場所で寝るのが、マーチのナイトルーティンに。朝は、自動給餌器にセットしたご飯を勝手に食べ、私が起きるまで静かに待ってくれています。「誰かと一緒に暮らすというのは、互いを理解することなんだな」と、マーチから学びましたね。
ちなみに、これまでは締切間際になると夜遅くまで仕事をしたり、時には徹夜をしたりすることもあったのですが、夜遅くなるとマーチが「寝ないの?」と訴えかけるような目で鳴くので、徹夜もしなくなりました。仕事の効率は悪くなりましたが、以前よりも健康的な生活にはなったような気がします。