イリオモテヤマネコの研究で博士号(琉球大学大学院理工学研究科)を取得。イエネコに世界で初めてデータロガーを付けたことが自慢。南極のペンギン類からアフリカのチーターの研究などを経て、現在は、瀬戸内海に棲むさまざまな動物を対象にバイオロギング研究を続けている。RABOでは、動物研究者の目線から機械学習チームの開発をサポートしている。
Catlog総研 第11回レポーティング! 猫様の睡眠の仕方、知ってますか?1日の睡眠パターンと年齢による変化を分析!
動物にとって欠かせない睡眠。最近では、人間の生活の質(QoL)にも大きく影響することが広く知られるようになり、睡眠について深く理解した上で改善していくことの重要性が一層高まっています。
1日の大半を寝て過ごしている猫様にとっても、睡眠は人間と同様に大切なもの、もしかすると人間以上に重要なものかもしれません。
睡眠時間をはじめとして、猫様と人間では睡眠のパターンが大きく異なることから、猫様特有の睡眠の特徴を理解した上で、快適な睡眠を提供する方法を考える必要があります。同時に、1日の大半を寝て過ごす猫様の睡眠を、飼い主さんが常に見守り続けることは難しいといった課題もあります。
この度、飼い主さんがより簡単に猫様の睡眠パターンを把握できるよう、Catlogの新機能として、睡眠スコア・アラート機能を新しくリリースしました。本リリースに合わせまして、今回のCatlog総研では猫様の睡眠パターンについて特集します。
監修した専門家
博士(理学)。京都大学大学院理学研究科生物科学専攻を修了後、製薬会社にて研究職(非臨床安全性評価)に従事し、2023年4月にRABO入社。これまでに、神経科学及び毒性学領域(主にin vivo)での画像、行動、及び生体データを対象とした統計解析及び機械学習の技術開発を経験。猫様も好きだし、サルも好き。
こんにちは、CatlogのMLエンジニャー / データサイエンティストのべーやん(@beeyan)です。暖かな春も束の間、梅雨と夏の訪れを感じています。特に近年の高温かつ多湿な日本の気候は、人間だけでなく猫様にとっても寝苦しいものです。
猫様が心地よく寝ているかどうかを知るためには、まず猫様が普段どのように睡眠をしているかを把握することが大切です。飼い主さんが猫様の睡眠とその変化を把握できるよう、Catlogの新機能として睡眠スコア・アラート機能を開発し、リリースしました。これに合わせて、今回のCatlog総研では、Catlogで取得した1年分の猫様の睡眠データを分析し、猫様の睡眠パターンについて深掘りしていきます。
どこが違う?人間と猫様の睡眠パターン
一般に、人間の睡眠は睡眠中に眼球が活発に動くレム睡眠と、眼球運動を伴わない深い睡眠を含むノンレム睡眠に分類されます。ノンレム睡眠と続くレム睡眠を1サイクルとして、1回の睡眠の中でこ のサイクルが複数回繰り返されます。規則正しく、睡眠サイクルの中断が少ない安定した睡眠は質の良い睡眠とされており、健康増進や疲労感の低減、日常生活のパフォーマンス向上に重要とされています。一方で、人間の場合は特に高齢者で多いのですが、浅い睡眠や睡眠中断の増加による質の低下は生活リズムの乱れを引き起こすなど、生活の質そのものの悪化に繋がります。
このような特徴を持つ人間の睡眠と比較して、猫様の睡眠パターンはどのような点が共通するのでしょうか?猫様にもレムとノンレム睡眠があり、1日の中でノンレムとレム睡眠のサイクルを繰り返していることが人間と共通して知られています(文献1)。猫様でも、規則正しく、睡眠サイクルの中断が少ない安定した睡眠を質の良い睡眠といえそうです。
一方で、1日あたりの合計の睡眠時間や1回の睡眠サイクルの時間に目を向けると、次のような大きな違いがあります。「猫」の語源が「寝子(ねこ)」であるという説がある通り、猫様は1日の大半を寝て過ごすと言われています。日本人の平均睡眠時間が1日あたり6から7時間程度であるのに対し、過去の記事で紹介している通り、成猫の場合は14時間以上と、およそ倍以上の時間を睡眠に費やしていることが知られています。また、寝ている時間帯に着目してみても、人間は通常1日に1回連続した睡眠を夜間に取る(図11-1上)のに対し、猫様の場合、睡眠が比較的短時間のまとまりに分割され、様々な時刻に睡眠を取る(図11-1下)ことが知られています。
※図11-1 人間(上)及び猫様(下)の代表的な睡眠パターンの模式図。横軸に時刻をとり、睡眠していた時刻を睡眠の長さ別に塗りつぶして描出。
年齢によって異なる!猫様の睡眠パターンの変化
それでは、これらの猫様特有の睡眠パターンは、猫様によってどのように変わるでしょうか?過去の記事で紹介している通り、1日あたりの睡眠時間は年齢によって変化し、成猫よりも老猫の方が長いことが知られています。そこで今回は、Catlogの保有するデータの中から約6800猫様の睡眠データを用いて、1日あたりの総睡眠時間、1日あたりのまとまった睡眠の回数、及び、猫様がよく寝ている時間帯を年齢別に分析しました。
1日あたりの総睡眠時間
まず、1日あたりの睡眠時間を見てみましょう。分析の結果、全猫様の平均睡眠時間は1日あたり15.3時間であり、年齢別に見たところ、年齢が高くなるにつれて平均睡眠時間が長くなることが分かります(図11-2)。特に、〜2歳から6〜8歳までにかけて大きく増加し(+22.5%)、それ以降ほぼ横ばいとなります。
※図11-2 Catlog利用中の猫様のうち、一定のデータ取得条件を満たすサンプルを抽出。1日あたりの総睡眠時間について、猫様別に中央値を算出した後、年齢別の全猫様平均値をそれぞれ描出。
1日あたりのまとまった睡眠の回数
次に、1日あたりのまとまった睡眠回数をみてみましょう。ここでは、図11-1に示すような睡眠のまとまりそれぞれについて、長さが30分以上のものを長い睡眠、30分未満のものを短い睡眠の二つのパターンに分類しました。長い睡眠は睡眠サイクルが中断することなく複数回繰り返す睡眠に相当し、短い睡眠は睡眠サイクルが途中で途切れたような睡眠に相当します。その上で、1日あたりの回数をそれぞれ計数し、年齢別の平均値を算出しました。
その結果、いずれのパターンについても、年齢を重ねるにつれて増加することが分かりました(図11-3)。興味深いことに、増加の傾向は2パターンの間で異なりました。具体的には、長い睡眠については〜2歳から6〜8歳までにかけて大きく増加し(+18.7%)、それ以降はほぼ横ばいなのに対し、短い睡眠については〜2歳から6〜8歳までの変化は小さく(+2.0%)、6〜8歳から16〜20歳にかけて大きく増加する(+27.0%)ことが分かりました。
※図11-3 図11-2と同じサンプルを用いて、1日あたりの長い及び短い睡眠回数について、猫様別の中央値を算出。その後、年齢別の全猫様平均値を描出。
これらの年齢に伴った増加傾向の違いはどのようなことを示唆するでしょうか?青少年期から成猫期(〜6歳)と中年期以降(8歳〜)に分けて、睡眠の違いを比較してみましょう。まず、長い睡眠回数の増加傾向については、1日あたりの睡眠時間と同様に青少年期から成猫期にかけて最も増加幅が大きいことから、年齢に伴って中断の少ない睡眠を長く取れるようになると考えられます。若い猫様ほど活動量が高いことから、普段の遊びや探索で多くのエネルギーが消費され、その回復のためにぐっすりとした睡眠が多くなるのかもしれません。また、年齢を重ねるに従ってご家庭に慣れ、より安心してぐっすり寝られるようになるといった環境影響も考えられます。
一方で、中年期以降(8歳〜)については、1日あたりの睡眠時間は大きく増加しないものの短い睡眠が増えていました。例えば人間では、高齢者にて中途覚醒の頻度が増えることが知られています。これと同様に、高齢の猫様で見られた短い睡眠の増加は、睡眠サイクルの途中で覚醒しやすくなることで生じたと考えられ、猫様でも加齢に伴い睡眠が浅くなっている可能性が考えられます。その他の要因として、加齢に伴って関節炎や膀胱炎といった慢性的な痛みを伴う疾患の発症率が高くなることから、痛みによって質の高い睡眠が取れて いない猫様が増える影響もありそうです。ですので、普段の睡眠の様子を観察することで、これらの異常に早期に気づいてあげることが大切です。
※Catlog CCO(Chief Cat Officer)であるブリ丸氏の安心しきった寝相
猫様がよく眠る時間帯
最後に、猫様がよく寝ている時間帯について見てみましょう。野生ネコ科の多くは、明け方と夕暮れに活発的に活動する薄明薄暮型の日周性をもつと言われており、この薄明薄暮性が飼育下の猫様でも同様に認められるかを調べました。ここでは、1日24時間を1時間ごとに区切り、各時間帯での睡眠時間が占める割合を年齢別に分析しました。
その結果、いずれの年齢の猫様も深夜と昼間では睡眠の比率が高く、朝や夕方から夜にかけて少なくなることが分かり(図11-4)、薄明薄暮性に近い傾向であることが分かります。一方で、日の出と日没前後に狩りを行う野生の猫様に比べると、飼い猫様の場合は、飼い主さんが在宅して活動していることの多い18時から23時の時間でも睡眠が引き続き少ないことが見て取れます。よって、猫様本来の薄明薄暮性に加えて飼い主さんの生活リズムも猫様の睡眠に大きく影響していると言えるでしょう。
年齢別の違いに着目すると、年齢を重ねるに伴って睡眠が占める割合が高くなり、特に〜2歳から6〜8歳までにかけて大きく増加しています。このことは、1日の総睡眠時間の増加傾向と一致します。一方で、8〜12歳以降では増加幅は小さくなり、深夜の時間帯(午前1時〜4時)に着目すると、むしろ8〜12歳から16歳〜にかけて減少していることが分かります。これにはどのような原因が考えられるでしょうか?例えば、上で述べたような関節炎や膀胱炎といった慢性的な痛みによって眠りが浅くなり、どの時刻でも一定の確率で目覚めてしまう可能性が考えられます。あるいは、人間の高齢者の場合、昼間の睡眠時間が増加することに伴い生活リズムが乱れることが多いと広く知られており、もしかすると同様な生活リズムの乱れが猫様でも生じているのかもしれません。
※図11-4 図11-2と同じサンプルを用いて、1時間中に含まれる睡眠時間の占める割合(%)について、猫様・時刻別の中央値を算出。その後、年齢別の全猫様平均値を描出。薄明(午前4時〜6時)及び薄暮(午前17時〜19時)の時間帯をハイライトとして網掛けして表示。
より快適な猫様の睡眠のために:睡眠スコア・アラート機能
本記事では、猫様の睡眠の特徴に沿った睡眠パターンの変化を調べることで、加齢に伴った疾患や生活リズムと関連すると考えられる変化が捉えられることを見てきました。つまり、人間と同様、猫様でも睡眠の質を適切な指標(スコア)を用いてモニタリングすることで猫様が 快適に睡眠できるかを窺い知ることができ、さらに、これらの指標を改善するよう猫様のケアや環境を見直すことで猫様の生活の質を向上させることが可能であると考えています。
一方で、1日の大半を寝て過ごす猫様の睡眠を常に見守り続けることは難しいため、飼い主さんがより簡単に猫様の睡眠パターンを把握できるよう、この度、Catlogの新機能として睡眠スコア・アラート機能を開発し、リリースしました。
本機能は、普段の睡眠と比較して、昨日の猫様の睡眠がどの程度変化しているかを飼い主さんにお伝えする睡眠スコア機能と、大きな変化が認められた場合に飼い主さんにお知らせする睡眠アラート機能から構成されます(図11-5)。睡眠スコア機能では、本記事でも紹介した、猫様の1日あたりの睡眠時間、まとまった睡眠回数、及び、猫様がよく寝ている時間帯の3項目について猫様の睡眠パターンを分析し、グラフとして飼い主さんに分かりやすくお伝えします。これらの項目が普段と比べて大きく変化している場合は睡眠スコアが低く、変化が小さく猫様が安定した睡眠が取れている場合には睡眠スコアが高く表示されます。
睡眠アラート機能では、睡眠スコアが特に低く、普段より猫様が過眠又は不眠がちな睡眠パターンが認められた場合、それぞれ過眠又は不眠アラートとして、飼い主さんにお知らせします。こういった変化があった場合には、睡眠の環境を見直していただき、また具合が悪そうであれば獣医師にご相談いただき、猫様がより健康的で快適に睡眠できる環境づくりの一助となれば幸いです。
※図11-5 Catlogの睡眠スコア・アラート機能について
これからもCatlog総合研究所では、猫様と飼い主さんの幸せな生活をサポートするために、Catlogで取得された世界最大規模の猫様行動データと最新の科学的知見に基づいた情報を提供し続けます。
すべては、猫様のために。
引用文献
(1) Márquez-Ruiz J, Escudero M. Tonic and phasic phenomena underlying eye movements during sleep in the cat. J Physiol. 2008 Jul 15;586(14):3461-77. doi: 10.1113/jphysiol.2008.153239.
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ライター
Catlog総合研究所
「Catlog」シリーズを利用いただいている猫様から取得・蓄積された行動ログデータや体重・排泄データなどを活用した研究機関。 猫様の行動や習性をよりよく理解するきっかけとなる研究データをお届けしてまいります。
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