株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
体調の変化を表に出しにくい猫では、普段とは違う行動から健康・病気のサインを読み取ることが重要です。なかでも、泌尿器系、消化器系の疾病が多い猫では、トイレから得られる情報はとても大事です。
おしっこの色、量、うんちの柔らかさなど、全てに気を配ることがベストですが、今回は「トイレの回数」にフォーカスしてご紹介します。
監修した専門家
株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
動物病院勤務 獣医師
獣医師。公務員獣医師として家畜防疫、牛の改良繁殖に携わる。その後はアミカペットクリニック、アカデメイア動物病院にて小動物臨床に従事。株式会社RABOにてWebコンテンツの監修も行っている。
猫は、泌尿器疾患や消化器疾患が多い動物です。共通するのは、トイレ(排泄)に関係した病気という点です。こうした病気が多い猫だからこそ、トイレから得られる情報は、健康管理にとても重要です。
おしっこやうんちは、多くのヒントを教えてくれます。それは、獣医師でないとわからないものだけでなく、ごくごく一般的に家庭で気づける変化もあります。
<注目すべきトイレ情報のポイント>
1日のトイレ回数(うんち/おしっこ)
1日の尿量の合計
おしっこの色
おしっこのにおい
1日のうんち量
うんちの固さ
うんちのにおい
うんちの色
どれも重要ですので、できる限り毎日確認し、記録できるのがベストです。が、全てを記録するのは大変ですよね。見た目やにおいの変化はトイレ掃除の時に気づくことができますが、回数や量を把握するのは困難です。でも、泌尿器疾患や消化器疾患を患っている場合には、こうした回数や量を把握しておくことはとても重要なのです。
関連記事:猫のトイレ回数の平均は?|頻度が多い・少ない場合の病気の可能性と対処法を解説!
アニコム家庭どうぶつ白書2021によると、猫の保険金請求理由の1位は「消化器疾患(15.9%)」で、2位は「泌尿器疾患(13.5%)」と報告されています。
さらに、病気別のTOP5を見てみると以下の通りです。
順位 | 傷病名 | 件数(保険金請求) | 1頭あたりの年間診療回数 | 1頭あたりの年間診療費(平均) |
---|---|---|---|---|
1位 | 慢性腎臓病(腎不全含む) | 61,923件 | 15.0回 | 272,598円 |
2位 | 嘔吐/下痢/血便(原因不明) | 20,523件 | 2.2回 | 37,601円 |
3位 | 膀胱炎 | 14,620件 | 3.0回 | 45,741円 |
4位 | 胃炎/胃腸炎/腸炎 | 11,934件 | 2.2回 | 36,334円 |
5位 | 心筋症 | 7,377件 | 6.6回 | 164,135円 |
出典)アニコム家庭どうぶつ白書2019 「猫の請求理由TOP20」より抜粋
1-4位まで全てを泌尿器疾患と消化器疾患が占めています。
1位の慢性腎臓病では、おしっこの量と回数が増加し、2位の嘔吐/下痢/血便ではうんち回数が増えやすいです。3位の膀胱炎では「頻尿」といって、おしっこの回数が増加します。
また、20位には「便秘」もあるのですが、しぶりという症状が見られやすく、この場合もトイレの回数が増加します。
このように、トイレの回数は猫に多い病気の兆候を反映するため、この変化を知ることはとても大事になります。おしっこの色の変化や、うんちの柔らかさにも変化があります。しかし、これらは時間が立つと分かりにくくなるため、あくまで家庭では、回数や量をメインの指標とすることでより正確に状況を把握することができます。
2位の血便、3位の膀胱炎、5位の心筋症については下記の記事で解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
まず、飼い猫の1日のトイレ回数はどのくらいでしょうか。Catlogのデータによると、以下の結果でした。
トイレ入室回数:平均2.7回(約2回〜3.3回)
おしっこ回数:平均1.8 回(約1.2回〜2.3回)
うんち回数:平均0.7回(約0.5〜1回)
※利用期間における1日あたりの平均回数で算出(5%トリム平均)
うんちとおしっこ合わせて、1日3回以下くらいが平均のようです。うんちにいたっては、平均すると1日1回もない場合も多いようですね。ただ、大事なことは全体平均よりも、猫それぞれの回数です。
毎日何回ほどトイレにいき、何回ほどおしっことうんちをするのかを知っておくことは、実はとても猫の健康管理に役立ちます。
しかし、毎日回数をメモしておくというのも大変ですよね。Catlog Boardを使えば、自動で排泄の回数や量を記録し、アプリで確認することができます。トイレの状態を把握しておきたいという方は、ぜひご検討ください。
Catlog Boardのご紹介はこちら
1日のトイレ回数が異常に増えるときはどんな状態を表しているのでしょうか?これを判断するには、いくつか見るべきポイントがあります。おしっことうんちのどちらなのか、排泄の有無、量、「出したいけど出せない」のか「何度も出てしまう」のかなど、1つずつ状況を確認していきましょう。
まずは、何度もトイレにいく行動を起こす症状をまとめてみます。当てはまるものがないかを確認しましょう。
<トイレの回数増加を起こす症状リスト>
症状 | 特徴 | 関連する病気 |
---|---|---|
多尿 | おしっこの量が増えるため、トイレ回数も増加しやすい | 慢性腎臓病、糖尿病、尿崩症など |
頻尿 | 少量のおしっこを、何度も何度も排泄する | 膀胱炎、尿石症、下部尿路疾患など |
下 痢 | 排便回数が増加する | 胃腸炎、小腸炎、大腸炎など |
尿道閉塞 | 尿道が詰まるため、トイレに行って排尿姿勢をとってもおしっこが出ない(または出にくい)。 | 尿石症、膀胱結石、膀胱炎など |
便秘 | 固いうんちを出そうとするが出にくく、何度もトイレで排便姿勢をとる | 巨大結腸症など |
何度もトイレにいく、という状態の時、まずは排泄しているのかしていないのかを確認しましょう。実はこれはかなり重要で、特に気をつけたいのは「出したいのに出せない」という状況になっていないかを見極めることです。
回数が多いだけでなく、毎回しっかりと排泄できている場合は、「大量に出てしまっている」状態です。おしっこであれば、多尿や頻尿があると増加し、うんちであれば下痢や便秘後の排泄がこれにあたります。
回数は多いが、排泄できていない場合は、「おしっこやうんちが詰まってしまっている状態」かもしれません。結石などが尿道に詰まる尿道閉塞や、固いうんちが出せずにいる便秘などが考えられます。
多尿と頻尿は混同しやすいですが、多尿は「おしっこの量が増える」ことを言います。おしっこの量が増えるため、トイレの回数も増えることが一般的です。
ペットシーツや猫砂を確認し、毎回大量におしっこをしている、以前より砂の塊が大きくなった、ペットシーツの染みが大きくなったといった変化があれば、多尿になっている可能性があります。
おしっこの量が増える原因ですが、摂取した水分が多いか、過剰に排泄してしまっているかのどちらか、または両方です。
よく行われる治療として皮下点滴がありますが、大量に水分を補給するため、その分おしっこの量が増えます。また、利尿剤という薬(心臓の治療などで使われる)は、強制的に体内の水分を出そうとするため、おしっこの量が増えます。そして重要なのが腎臓病や糖尿病による多尿です。
例えば、慢性腎臓病では本来行われるべき「再吸収」というプロセスが上手くできなくなり、過剰に体内の水分を出すことで多尿を起こします。
おしっこの元は血液です。この血液を濾過(ろか)したものは原尿と呼ばれ、、原尿の99%はリサイクル(再吸収)されます。残りの1%がおしっことして排泄(捨てる)されますが、再吸収の機能が落ちることで、おしっこがたくさん出てしまう状態(=多尿)になります。
当然、身体は水分が足りなくなるので「水を飲んでください〜」という司令が出され、喉が乾きます。これが「多飲多尿」という症状であらわれます。
とてもシンプルに説明すると、血液内に糖分(グルコース)が増加する状態を糖尿病と言います。糖尿病でも、多くの場合に多尿が見られます。
高血糖状態では、血管内と血管外の濃度に差ができます。グルコースはとても大きな分子なので、浸透圧により血管外からたくさんの水分を引き寄せます。これにより、腎臓に流れ込む血液が増え、多尿が起こり、結果的に脱水状態となってしまいます。こちらもおしっこが出てしまうので喉が乾き、多飲多尿の症状が見られます。
糖尿病については下記の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
頻尿は「おしっこの回数が増える」ことを言います。膀胱炎でよく見られる症状です。
膀胱は風船のように 伸び縮みする臓器ですが、炎症が起きると、少しおしっこがたまっただけでピリリと刺激が走り、身体は排尿をうながします。そのため、何度も何度もおしっこをする症状が「頻尿」として現れます。
膀胱炎で同時に見られやすい症状に「血尿」もあります。頻尿とセットで出る場合がありますので、おしっこの色の変化や匂いなどもチェックできるとベストです。
血尿について下記の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
うんちの回数が増えるときは、下痢の場合によく見られます。中でも、大腸性下痢といって、大腸に炎症がある場合に見られやすく、排便回数は4-10倍も増えるとされています。裏急後重(りきゅうこうじゅう)といって、しきりに便意を催すのに、排便の量はごく少量の状態が見られることが多いです。小腸性下痢でも2-4倍増えると報告されています。
肛門に近い直腸で炎症が起きている場合(直腸炎)には、肛門周囲を噛むようなしぐさも見られることがあります。うんちの色ややわらかさ、粘液がついていないか、血液はついていないか、量はどうかなども確認してみてください。
「尿道閉塞」という症状(病状)があります。これは、膀胱内にできた結石や細胞の塊などが尿道に流れて、尿道の途中で詰まり、おしっこをせき止めてしまっている状態です。
強い痛みと激しい尿意があり、猫のつらさも大きい病気です。尿道閉塞の症状の特徴もご紹介します。
<尿道閉塞の症状の特徴>
ある日突然起こす
膀胱炎、膀胱結石を患っている
排尿姿勢をとるが、おしっこが出ない/ほとんど出ない
ぐったりとする
嘔吐、食欲不振
何度もトイレにいく、トイレ以外のところでもぽたぽた漏れる
(写真中央)尿道閉塞で大量に尿が貯留した膀胱。ほかの臓器を押し出すようにお腹の大部分を占めている
長時間閉塞が続くと、膀胱がパンパンに張り、そのまま放置すると膀胱破裂を起こす場合もあります。破裂はしなくても、尿の流れがせき止められるため、その手前にある腎臓にも大きなダメージを与えてしまい、急性腎不全に進行することもあります。
また、本来尿として捨てるべきものが捨てられなくなります。特に、カリウムは心臓を止めてしまう作用があり、突然死につながる場合もあります。
もし、尿道閉塞を疑う症状があれば、すぐにでも病院に連れていくようにしましょう。
「出したいのに出せない」でよく見られるのが、便秘です。経験的には、猫は犬よりも便秘になりやすく、長時間腸内に滞留することでより固いうんちになってしまい、さらに出にくくなってしまう負のスパイラルが生じます。そのまま進行すると、巨大結腸症という状態となり、腹圧をかけても便が出ない、より重度な状態となります。
ほかにも、下痢がひどいときは、便意を催してもほとんど出ないこともあり、それでも一生懸命絞り出そうとトイレに止まる場合も見られます。便を出し切ったあと、ドロッとした粘液だけが出る場合もあります。
これまで、トイレ回数が増える時の症状をベースにご紹介しましたが、ここでは、原因となる病気をベースにリストでご紹介します。
<猫のトイレ回数増加の原因>
| 例 | トイレ回数が増加する症状 | その他の症状 |
---|---|---|---|
おしっこ | 膀胱炎 | 頻尿 | 元気消失、血尿、膿尿、結晶尿 |
慢性腎臓病 | 多尿 | 元気消失、体重減少、多飲、食欲不振、薄いおしっこ | |
糖尿病 | 多尿 | 元気消失、体重減少、多飲、食欲不振、薄いおしっこ、尿糖 | |
膀胱結石 | 頻尿 | 元気消失、血尿、膿尿、結晶尿 | |
尿道閉塞 | 排尿がない(または少ない)が排尿姿勢をとる | 少量の尿、排泄時の痛み、ぐったりとした状態、嘔吐 | |
うんち | 腸炎 | 下痢 | 血便、軟便、食欲不振、嘔吐 |
便秘/巨大結腸症 | 排便がない(または少ない)が排便姿勢をとる | 固いうんち、血便(肛門や直腸の出血)、嘔吐、食欲不振 | |
その他 | ストレスなど(排泄のためではなく、隠れるなどの意図でトイレに入室する) |
トイレ回数の増加は、比較的気づきやすい症状ではありますが、原因もある程度特定しやすいものでもあります。周辺の状況も確認した上で、動物病院で診察を受けることができるとベストです。
<猫のトイレ回数が増えた時>
①なぜトイレに行くのかを確認する
②動物病院に連れていく
トイレの回数が増えている場合は、なぜトイレに行くのかを確認しましょう。以下にチェックリストを載せておきますので参考にしてください。
<トイレ回数増のチェックリスト>
トイレで排尿・排便姿勢をとるか(出そうとしているのか、隠れているだけか)
おしっこか、うんちか
量は少量か、普通〜大量か
色、匂い、やわらかさ(うんちの場合)は、平常時と変化はあるか
その他に何か症状はあるか(嘔吐、痛そうにしているなど)
まずもって注意しなければならないのは、「尿道閉塞」です。おしっこが出ていない!と思ったら、すぐに病院に連れていきましょう。この病気は緊急性が高く、翌日まで様子を見ていては危険かもしれません。確実に尿が出ているか自信が無い場合にも、動物病院で確認した方が安心でしょう。
原則、動物病院に連れていくことがベストです。ただ、例えば一時的な下痢を繰り返しており、経過もある程度見えている場合などは、これまでの治療方針に応じて対応するという方法もあります。
前述した病気の中でも急を要するものと、(少なくとも半日〜1日程度)様子見しても許容できるものがありますので、迷う場合は動物病院に電話をして相談してみましょう。
「Catlog Board(キャトログボード)」では、トイレ回数の増加についてお知らせする機能を搭載しています。これまでにご紹介した内容を確認しながら、思い当たることがある場合には、かかりつけの動物病院にもご相談ください。
※このアラートは、何らかの理由でCatlog Boardが正しく計測できなかった場合にも表示されることがあります。猫様の健康状態に問題がない場合は、記録に誤りがないか等をご確認ください。
※Catlogシリーズは、動物の疾病の診断、治療もしくは予防に使用するものではなく、医療機器ではありません。本アラートを参考のひとつとしていただき、ご自身の判断で動物病院にご通院等いただくようお願いします。
猫の「急なトイレ回数の増加」についてご紹介しました。何度もトイレに入ることは、言葉を話せない猫にとってはまさに「必死」の行動です。命に係わる場合もありますので、異常を訴えるシグナルを見逃さないようにしましょう。特に猫は、泌尿器系疾患や消化器疾患が多い動物ですので、ぜひ本記事をご愛猫様の健康のご参考にしてください。
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ライター
猫様のいる暮らし編集部
2匹の猫様と一緒に暮らしています。無防備になったお腹に顔をうずめ、猫吸いをさせていただくのが至福の時間。 猫様との暮らしにまつわる情報をお届けします。
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