株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
「猫は腎不全に注意しなくてはいけない」ということをなんとなく知っている方は多いと思います。でも、なぜそこまで心配する必要があるのかについて知る方は多くありません。今回は、獣医師の目線で猫の腎臓病を徹底的にご紹介していきます。キーワードは3つ。「猫の死因は、4匹に1匹が腎不全」、「闘病は”本当に”大変」、「早期発見が重要」です。
<この記事のポイント> ・猫の慢性腎臓病は本当に多い ・気付いた頃には手遅れになっていることが多い ・完治しないため、「進行を遅らせる」が基本戦略 ・治療費は年間27万円にも ・まずは早期発見を!
監修した専門家
株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
アリアスペットクリニック 院長 / 臨床獣医師
神奈川県の地域中核病院でジェネラリストとして経験を積みながら、学会発表も行う。2019年アメリカ獣医内科学会で口頭発表。アニコムホールディングスに入社後は#stayanicomプロジェクトの中心メンバーとしてコロナ禍のペット救護に当たる。2020年から現職。得意分野は運動器疾患、猫使い(使われ)。
猫に関する書籍やWEB記事、はたまた商品のパッケージなどでも度々登場する「猫の腎不全」。猫が腎不全になりやすいことの認知率は9割近いとも言われています。しかし、私たち獣医師から見ると、これでもまだ足りないくらいです。なぜなら、「知っている」だけではなく、なぜ注意すべきなのか、そのためにどうすればいいのかまで理解している方は、そう多くないからです。
腎臓の病気は「泌尿器疾患」に分類されます。猫は泌尿器疾患にかかりやすく、犬の2倍近くの罹患率があります。泌尿器疾患とは、例えば以下が挙げられます。
腎臓病(急性腎不全、慢性腎不全など)
特発性膀胱炎(若齢に多い。原因不明の膀胱炎)
細菌性膀胱炎(全年齢で起きるが女の子に多い。細菌が膀胱内で繁殖する)
尿石症(膀胱結石や腎結石など)
ある調査によると、泌尿器疾患を除くと猫の寿命は1.6年延びるという報告もあります。
さまざまな統計がありますが、日本の猫全体の6-30%が腎臓病を持っていると言われており、単純計算すると、およそ57万頭-270万頭が腎臓病と闘っていることになります。はっきりした症状が出ていない「予備軍」を含めると、さらにその数は多くなるでしょう。
猫に泌尿器疾患が多い理由は諸説ありますが、猫の祖先が砂漠で生活していたことから、水を多く飲まずとも生きていける形質を獲得し、その代償として泌尿器への負担がかかりやすくなったなどと言われています。
動物病院からも口酸っぱく言われる理由のもう一つは、その闘病の大変さにあります。特に今回は、長い闘病生活が必要となる「慢性腎臓病」について見ていきましょう。
参考文献)
慢性腎不全は治りません。そのため、手を打たなければ(あるいは打ったとしても)病気は進行しつづけます。
最初は目に見える症状はほとんどなく、この段階で気づけた場合には、まずは療法食や軽い投薬治療を始めます。
やがて、脱水気味になったり食欲が落ちたりしはじめ、薬を複数飲むことになり、数ヶ月に一回おきに血液検査に通うようになります。それでも検査値や脱水の程度が悪化してくると、水分を補うための点滴が始まります。病院や自宅で 、点滴による補液を行うため週に1回〜もしかすると毎日点滴を行う必要があることも珍しくありません。
冗談ではなく、新人の獣医師よりも腎不全と闘病中の飼い主の方が点滴が上手にできる、ということもあるほどです。
飼い主の多くは「もっと早く気づいてあげられれば…」と感じます。でも、それは簡単ではありません。なぜなら、初期は症状がほとんど現れず、進行しても不明瞭な症状しか示さないためです。さらに、気づけたとしても根本治療はなく、対症療法(出てきた症状や異常を抑える治療)に限られるのです。つまり、気づきにくく治りづらい、それが腎臓病です。
動物病院で働くと、腎臓病の猫に遭遇しない日は無いほどよく目にする病気です。だからこそ、ほぼ全ての獣医師が、この腎臓病について知ってもらいたい、日常からできる限りのことをしてあげてほしいと考えるのです。
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腎臓の代表的な役割は、「おしっこ作り」です。おしっこの元は血液なのですが、腎臓は、全身の血液を必要なものと不要なものに分け、おしっことして排泄(廃棄)します。しかし、腎臓が悪くなるとこれができなくなります。必要なもの(主に水分)まで捨ててしまうだけでなく、不要なものを溜め込んでしまうといった具合に。そのほかにも、腎臓はたくさんの役割を担っていて、哺乳類にとって”超”重要な臓器の一つです。
<腎臓の役割>
尿の生成
水分の保持
貧血の検知と造血の合図
血圧のコントロール など
腎臓には、血液を濾過する網目(糸球体)と、その後に水分を吸収するコース(尿細管)を一つのユニットとして、このユニットが実に数百万個も存在します。このユニット(ネフロンといいます)が次々と障害を受け、壊れていくことで腎臓病を発症します。
慢性腎臓病は、はっきりとした原因はわかっていませんが、以下のようなことが危険因子として考えられています
遺伝
ウイルス
歯肉炎等から血液内へ細菌感染を起こすこと
障害を受けた際に修復する細胞が動かないこと
腎臓の奇形
腎臓の腫瘍
ここで問題なのが、「腎不全は症状が現れにくい」ということです。それは、腎臓に備わる「代償機能」が理由です。
重要な臓器であるからこそ、数百万個あるネフロンの一部が壊れても、その他のネフロンが頑張ること(代償すること)で、腎臓全体の機能をキープしようとします。そのため、腎臓病の兆候が現れづらく、気づかれないまま進行してしまうことが多いのです。具体的には、腎臓全体の4分の3(75%)が障害を受けると、一般的な血液検査で気づくことができます。逆に言えば、検査で気づくころには、既に腎臓の機能は4分の1(25%)以下にまで下がっている、ということです。
腎臓病の進行には、ステージがあります。最も軽度なものがステージ1、重度なものがステージ4です。
ステージ | 腎機能 | 症状 | 生存期間(中央値) |
---|---|---|---|
ステージ1 | 30%以下 | 特に目に見える症状はありません。ただ、1日の尿量が増えてきます。 血液検査では異常検出が難しい段階ですが、尿検査では異常が見られることがあります。 | データなし |
ステージ2 | 25%以下 | 尿量が増えてきます(体重1kgあたり50ml以上の大量の排尿) 元気や食欲はそれほど落ちません | 1151日(ステージ2の後期) |
ステージ3 | 10%以下 | 本来、排泄して捨てるべき老廃物や有害物質が捨てられず、「尿毒症」という状態になります 口内炎や胃炎といった粘膜に障害が現れはじめ、食欲の低下や嘔吐が頻繁におきます。 | 778日 |
ステージ4 | 5%以下 | 尿毒症が進行し、場合によっては起き上がれないような状態にもなります。 生命維持の必要があり、積極的な集中治療が必要な状態になります。 | 103日 |
前述した通り、このステージは逆に戻ることはできず、基本的に一方通行で進行します。そして、そのスピードは猫それぞれで、どれだけ早く治療を開始できたかによっても異なります。
参考文献)ISFM Consensus Guidelines on the Diagnosis and Management of Feline Chronic Kidney Disease
生存期間(寿命)についても触れておきましょう。当然ながら、ステージが早いほど生存期間は長い傾向にあると言われています。文献によっても生存期間(寿命) は異なりますが、211頭の腎臓病を持つ猫を調査したある研究(※)では、以下のように報告されています。
慢性腎不全のステージごとの生存期間(中央値)
ステージ2:1,151日
ステージ3:778日
ステージ4:103日
参考文献)Survival in cats with naturally occurring chronic kidney disease (2000-2002)
これは、いずれも中央値であり、全てのケースに適用できるものではありません。それぞれの猫の年齢や状態、家族の治療に対する考え方や、動物病院での治療方針によって大きくかわります。参考の一つに留めてください。
ステージによって症状は異なりますが、代表的な症状は以下の通りです。
多飲(たくさん水を飲む。ただし病状が悪化すると自力で飲めなくなってくることも)
多尿(うすいおしっこを大量にする)
食欲不振(食事を食べない、好きなものも食べないなど)
元気がなくなる
嘔吐
痩せてくる(削痩)
脱水
異様な口臭
口内炎
貧血
けいれん、ぼーっとしているなどの神経症状
昏睡
慢性腎臓病が進行すると、本来腎臓で取り込むべき水分がどんどん抜けていって(おしっことして出て行って)しまいます。これが多尿です。その分、脱水してしまいますので、次に多飲が起き、たくさんお水を飲むようになります。これを多飲多尿といいます。
参考文献)Feline CKD: Diagnosis, staging and screening - what is recommended?
慢性腎臓病では、多飲多尿の症状はほぼ100%生じます。さらに、腎臓病の早期から症状が出るため、これに気づけるかどうかが早期発見の分かれ道になります。しかし、1日どのくらいおしっこをしているかを測るのは難しいですよね。というかほぼ不可能だと思います。
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腎臓病を診断するには、主に血液検査で腎臓の働きを反映する数値を測定します。「クレアチニン」や「BUN」などのキーワードをなんとなく聞いたことがある方も多いのではないでしょうか? 健康診断では多くの猫がこれらを測定しているかと思います。
最近ではSDMAという指標も一般的になってきています。その他にもいくつかの検査方法がありますので、ご紹介します。
<腎臓病の検査方法>
血液検査
腎臓の働きを確認する指標を検査:血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cre)、SDMAなど
貧血の確認のため、赤血球の検査:赤血球の量、形など
病気の進行にともなう電解質異常の検査:ナトリウム、カリウムなど
レントゲン、エコー
腎臓の形状や大きさの確認
その他の腎臓疾患の検査やモニタリング
尿検査
おしっこのうすさ(尿比重)
おしっこの性質(タンパク質、尿糖など)
おしっこの量
参考文献)ISFM Consensus Guidelines on the Diagnosis and Management of Feline Chronic Kidney Disease
実は、いまのところ慢性腎臓病を根治する治療法はありません。ただ、それぞれの症状を抑える薬や、進行をゆっくりにするための治療法などがいくつかあり、病状に応じてさまざまな組み合わせを選択します。大原則の治療戦略は「進行を遅らせる」です。
ほぼ全ての腎臓病をもつ猫がこの食餌療法(食事療法)を行います。何が「療法」なのかというと、腎臓用の療法食では、腎臓に悪影響が少ないように成分が調整されているのです。具体的にはナトリウム(塩分)やリンの量、タンパク質などが調節されていることが多いです。
また、飲水量を上げることも重要です。腎臓病ではおしっこが大量に出てしまうので、たくさん飲めるような工夫をしましょう。(水置き場を増やす、ぬるま湯にする、流水であげる、ウェットフードをまぜるetc)
腎臓への負担を軽くすることと、腎不全による症状を和らげることが主な狙いです。腎臓病のステージや猫の状態に応じて、以下の薬が処方されます。
血圧降下剤(血管拡張剤)
タンパク尿を抑制する薬
腎臓の線維化を抑える薬
リンの吸着剤
毒素を吸着して排出させる薬(活性炭)
貧血に対する薬(エリスロポエチン製剤)
胃潰瘍を抑える薬(胃酸分泌抑制剤、胃粘膜保護剤など)
多尿で失われた水分を補給したり、腎臓病の進行を抑えるため、点滴(週に1回~毎日)を行います。週に何度も通院ができない場合などは、獣医師の指導のもと、自宅で点滴をする場合もあります。
人工腎臓(血液透析機)を用いて、腎臓の機能を代替します。特殊な機器を用いるため、全ての動物病院で行われるわけではありません。
専用のカテーテル(管)をお腹に設置して、透析液を介して老廃物や毒素を回収・排出します。主に急に悪化した腎臓病に対して行われます。
腎臓移植が挙げられます。、ただし、実例はそれほど多くなく、実際に手術を行っている動物病院はほとんどないのが実情です。
また、新たな薬剤として注目を集める「AIM製剤」も登場してきています。猫の腎細胞を修復するための白血球たちを集める役割をしてくれる可能性があります。今はまだ研究段階ですが、猫の腎臓病にとって新しい光となるかもしれません。
参考文献)Feline CKD: Current therapies - what is achievable?
ここまで慢性腎臓病を説明してきましたが、そもそもなぜ「慢性」なのでしょう?急性腎臓病(急性腎不全)とは何が違うのでしょうか?
どちらも「腎臓が機能しなくなる病気」であることは同じなのですが、急性腎不全にはほとんどの場合、明確なきっかけがあります。
誤飲:ユリ科植物やレーズン、不凍液に使われるエチレングリコールなど
薬物の摂取
重金属の 摂取
感染症:猫伝染性腹膜炎(FIP)、腎盂腎炎など
全身性のショック状態の後
尿道結石による尿道閉塞
それぞれの病因(急性腎不全を引き起こした原因)によって病気の機序は異なるのですが、こうした出来事が腎臓に急なダメージを与えることで発症します。対して、慢性腎不全は明確なきっかけなく、徐々に徐々に腎臓の障害が進むため、症状の現れ方も異なります。
急性腎不全では、急に腎臓が働かなくなる(働けなくなる)ため、もっとも重要な「おしっこを作る」ということができなくなります。これを「乏尿」や「無尿」と言います。元気や食欲がなくなることはもちろん、急にぐったりして動けなくなるなどの症状が起きます。
それぞれの病因に応じて治療が行われますが、まずは「おしっこを出す」ということが最初の目標になります。そのため、点滴による輸液療法、尿の産生を促す治療などが行われます。慢性腎不全と違い、元にある原因・病因を抑えられれば、治ることもあります。
気づきづらく治りにくい、おまけに患いやすいという点から、猫にとって慢性腎臓病は最も注意すべき病気と言っても過言ではありません。さらには、治療が長期化しやすく、その治療費もかなりかかるというのが特徴です。全ての猫飼い主が慢性腎臓病を知っておくべき理由をまとめました。
多くの猫が慢性腎臓病にかかる
気づきづらく、気づいた時には重症化している(サイレントキラー)
治らない
治療の過程が大変
診療費が高い
アニコム損害保険株式会社によると、飼い猫のおよそ6%が慢性腎臓病に罹患(りかん:病気を患っている状態)しています。特にシニア期になると顕著で、年齢を重ねるほどに腎臓病の罹患率は上がっていきます。(あるデータでは、飼い猫の80%が慢性腎臓病の兆候があると報告しているものさえあります)
※出典)アニコム家庭どうぶつ白書を参考にグラフを再編
時間をかけて徐々に進行していく病気なので、子猫の頃 はほとんど発症していません。成猫でも低く推移しているのがわかります。しかし、シニアと呼ばれる7-10歳頃を境に、ぐんぐんと増えていきます。13歳以上になると明らかですね。実際、ほかの統計では10歳以上では8割以上が慢性腎臓病と診断されている、という文献もあります。多くの研究で、高齢になるほどリスクが高まると報告しています。
猫の腎臓病は、家族性(遺伝性)の要因もあり、腎臓病のリスクが高いといわれる猫種もあります。
<腎臓病にかかりやすいとされる猫種>
メインクーン
アビシニアン
シャム
ロシアンブルー
バーミーズ
など
もっとも有力な説は、イエネコの起源である「リビアヤマネコ」が砂漠に住んで いたことに由来するというものです。砂漠の環境では、水を飲める機会が多くないため、少ない水の量でも生きていけるように進化しました。そのため、腎臓の保護に大切である体内の水分が少なくなりがちで、腎臓に障害を受けやすいというのも理由でしょう。ちなみに、猫科動物は総じて腎臓病が多く、ライオンやヒョウ、ピューマなども罹患しやすいと言われています。
腎臓病は「サイレントキラー」とも呼ばれることがあるほど、気づきづらい病気です。腎臓のほとんどがダメージを受けてからでないと症状らしい症状がなく、血液検査でも検知しにくいことが理由です。しかし、ゆっくりと確実に進行していく腎臓病は、気づいた時には重症化していることが多いのです。
だからこそ、早く腎臓病の兆候に気付くことが重要です。
慢性腎臓病は、数百万個もあるネフロン(腎細胞のユニット)がひとつずつ壊れてしまうことで徐々に発生するのですが、壊れた細胞は元にもどることができないため、不治の病と言われます。根本的な治療法は「腎臓移植」なのですが、ヒト医療と同様、まだ一般的 に行われているものではありません。
前述の通り、AIM製剤は新たな治療薬として注目を集めていますが、一般的に製剤化されるにはまだ道のりが長く、時間がかかりそうです。
とはいっても、腎臓病の進行を遅らせることは可能です。そのためには、動物病院での治療に加えて、自宅でも様々なケアが必要になります。
代表的なものとして、どのような腎臓病のステージでも共通して行う治療の一つが「食餌療法」です。
しかし、療法食はナトリウム(塩分)などが制限されている分、猫によっては「好みじゃない」こともあります。病気の影響から食欲も落ちてしまいがちなため、フードについて悩んでいる飼い主さんも多いのではないでしょうか。これに対応するため、フードメーカーも美味しさや食欲をそそる香りを追求しており、豊富な種類から選ぶことができます。
病気が進行したときに必要となる治療のひとつに「皮下点滴(ひかてんてき)」があります。身体の水分を確保して腎臓を保護するためにも、点滴を行います。基本的には病院で行われますが、点滴の頻度が増してくるとその度に病院に通うことがストレスになるため、飼い主さん自身が自宅で点滴をすることもあります。
皮下点滴はそれほど複雑な手技を必要としないので、動物病院で教えてもらえばほとんどの方ができるようになります。しかし、やはり毎日のように自宅で点滴を行うことや、点滴が終わるまでの約十分間つきっきりでいるのは大変です。
愛猫のためなら...とは思いつつも、治療費も気になるポイントです。
アニコム損害保険株式会社の調査によると、猫の保険金請求の件数の1位は「慢性腎臓病」です。1頭あたりの年間診療回数も群を抜いて多く、平均で年間15回も通院していることがわかります。1頭あたりの平均年間診療費は、27万円を超えており、1ヶ月あたり2万円以上かかる計算になります。
順位 | 傷病名 | 1頭あたりの年間診療回数 | 1頭あたりの年間診療費(平均) |
---|---|---|---|
1 | 慢性腎臓病(腎不全含む) | 15.0回 | 272,598円 |
2 | 嘔吐/下痢/血便(原因不明) | 2.2回 | 37,601円 |
3 | 膀胱炎 | 3.0回 | 45,741円 |
4 | 胃炎/胃腸炎/腸炎 | 2.2回 | 36,334円 |
5 | 心筋症 | 6.6回 | 164,135円 |
6 | 結膜炎(結膜浮腫含む) | 1.7回 | 18,647円 |
7 | 原因未定の外耳炎 | 2.7回 | 28,166円 |
8 | 元気消失(食欲不振含む、原因不明) | 2.4回 | 48,947円 |
9 | 糖尿病 | 14.0回 | 321,831円 |
10 | 原因未定の皮膚炎 | 2.2回 | 24,592円 |
このように、一回あたりの診療費もかかる上、何度も病院に通う必要があることも、慢性腎臓病のつらいところです。
2位の血便、3位の膀胱炎、5位の心筋症については下記の記事で解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
腎臓病は不治の病です。だからこそ、なるべく早い段階で気づいてあげることが重要です。そのためにできる4つの予防と対策をご紹介します。
健康診断が好きな猫はいないと思いますが、それでも猫の腎不全を見つけるために最も確実な方法が健康診断です。どのような年齢でも、年に1回は健康診断を受けることをおすすめします。特に、7歳以上では年に2回ほどの健康診断を勧める獣医師もいます。なぜなら、人よりも数倍早く歳をとる猫では、年に1回の健康診断では足りないという場面にも多く遭遇するからです。
事前におしっこを採取しておくという方法もおすすめです。人の尿検査と同じです。尿検査は重要な腎臓病の指標になる一方、病院では普通おしっこはしないので、つい尿検査が抜けがちです。その日の朝(前日の夜でもOK)のおしっこをスポイトなどでとっておき、密封パックで病院に持っていけるとベストです。
システムトイレをお使いの方であれば、前日に吸水シートを外しておき、直にトレイに貯まるようにしておくと簡単に採尿ができますよ。固まる猫砂を使用中であれば、猫がおしっこをするタイミングを見計らって、トレイ型のお皿などを差し入れるとおしっこが採れます(が、これは言うほど簡単ではありません)
慢性腎臓病では、「たくさんの薄いおしっこが出る」ことが特徴です。ですので、まず色とにおいが薄くなり、大量のおしっこが出ます。実は、おしっこの異常は、血液検査で判明するよりも早期に検知できる可能性があります。
色は、通常の黄色いおしっことは異なり、水のように色が薄くなります。加えて、独特なにおいが減り、ほとんど無臭に近いおしっこが排泄されます。
においの薄さや色の薄さに比例して、おしっこの量も増えます。慢性腎臓病のどのステージでも、多めに排泄されるようになります。具体的には、体重1kgあたり50ml/日を超えると「多尿」と診断されます。つまり、4kgの猫であれば、1日に200ml以上のおしっこが出ている場合は多尿と言えます。しかし、1kgあたり40mlほどでも尿量はかなり多い方なので、以前より増えたような気がする場合は注意してください。
体内の水分を十分に確保しておくことは、腎臓への負担を和らげる大事な手段の一つです。また尿毒素の影響による、食欲不振や嘔吐などの対策にも重要です。でも、猫はそう簡単にお水を飲んでくれませんし、冬場は特に水飲みが減りがちです。以下に、お水をたくさん飲めるようにするポイントをご紹介します。
<飲水量を確保するためのポイント>
常に新鮮なお水に
器を複数用意する
ぬるま湯にする
フレーバーをつける(鶏肉や魚などの茹で汁を混ぜる。塩分は不要、腐敗に注意!)
流水にする
器を清潔にする
多頭の場合、専用の器を用意する
広めの器を使う
腎不全が進行すると、体重も徐々に減っていきます。ダイエットではなく、病的に(自然と)体重が落ちていきます。できれば毎日測れるとよいですが、毎月1回でも良いので体重を計測し、その推移を見れると良いですね。
体重の測り方は、猫を抱っこした状態で体重計に乗り体重を計測し、その後に猫をおろして自分自身の体重を計測します。その差し引きが猫の体重になります。
猫の腎臓病では多尿や体重減少といった症状を早く見つけること、見逃さないことが重要です。これらの猫の健康管理には、Catlog Board(キャトログボード)がおすすめです。
Catlog Boardは、トイレの下に置くだけで排泄状況を計測できるデバイスです。おしっこの量・回数・体重などを自動で記録できます。また「先週よりおしっこ量が増えているようです」など、いつもと違う傾向があるときもアプリ通知で知らされるため、気になる症状が出た際に気付くきっかけとなるでしょう。蓄積されたデータはグラフで確認でき、変化のあったタイミングも分かりやすく表示されます。
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今回は、猫の慢性腎臓病について、考えられる原因や起きやすい症状、治療法などについて詳しく紹介しました。腎臓病は治らず進行しつづけてしまいます。いかに早く気づき治療を開始できるか、そして適切なモニタリングをしつづけられるか、が重要です。
まずは猫のおしっこの量、体重の変化に目を向けてみることから始めましょう。少しでも不安を感じる部分があれば、できる限り早めに動物病院を受診することをおすすめします。
参考文献)
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ライター
小川 篤志
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
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