株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
猫のバセドウ病といわれている「甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)」。一見すると食欲もあって元気なように見えるにもかかわらず、体重が減少していくことが特徴の病気です。 病気とは思えないような症状であることと、初期症状も分かりにくいことから、早期発見が難しい病気でもあります。 本記事では、猫の甲状腺機能亢進症について症状や診察・治療方法などを解説していきます。「投薬」「甲状腺の切除」「療法食」といった3つの治療方法についても説明するので、参考にしてください。
監修した専門家
株式会社RABO 獣医師
獣医師。救急医療を中心に従事し、災害医療にも携わる。宮崎犬猫総合病院 院長、TRVA夜間救急動物医療センター副院長を経て、現在RABOに所属。Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。
甲状腺機能亢進症は、食欲旺盛になり、家中を走りまわったりすることもあるすこし不思議な病気です。 多くの飼い主さんは、ご飯をもりもり食べているから、体調に問題はないと思いがちです。しかし、この病気の注意点はご飯をしっかり食べているにもかかわらず、体重が減っていくことにあります。では甲状腺機能亢進症とは、具体的にどのような病気なのでしょうか。
甲状腺機能亢進症は、甲状腺の細胞が増えて組織が肥大化し、甲状腺ホルモンが過剰に生産・分泌される病気です。発症年齢は、6-20歳と幅広いですが、高齢に多い病気というのは確かです。 ある研究では、7歳以上の高齢な猫のうち、10%程度の猫に見られるという報告があります。<参考>http://www.sagami-central-amc.com/clinicnote/pdf/clinicnote04_02.pdf
甲状腺の代表的な機能は、体のさまざまな組織の代謝を活性化することなので、この働きが過剰に亢進する=さまざまな活動、代謝がUPする方向に症状が現れます。 猫の甲状腺は、首のあたり(人でいう「のどぼとけ」付近)にあります。通常は左右対称に一対ありますが、病気を患っていると左右の大きさに差が生じているケースが多くあります。ただし場合によっては、左右どちらの甲状腺にも症状が現れている可能性もあるため、必ずしも左右の差だけで病気を発見することはできません。
甲状腺機能亢進症はほかの病気と比較すると、ややゆっくり進行していく傾向にあります。
一見するととても元気になったように見える場合があるので、「知らなければ病気とは思えない」かもしれません。甲状腺ホルモンは体内にあるほとんどの組織に作用し、代謝を盛んにするなど、活動に大きく影響するホルモンです。
言い換えれば、甲状腺機能亢進症は、体のあちこちが無理をしすぎて、常に消耗している状態といえるでしょう。
甲状腺機能亢進症では、代謝や活動量などが上がる方向に症状が出る病気です。食欲や活発性、心拍数や呼吸数などが上昇します。そのため、見た目だけでは「元気になった」とも思えるような不思議な病気であることが特徴です。
ここでは甲状腺機能亢進症の症状として、以下の6つについて解説していきます。
異様に元気になる
消化器症状
よく食べているのに太らない(痩せていく)
多飲多尿
攻撃性が増す
変な声(普段と違う)で鳴く
心拍数や呼吸数も上がる
症状を把握しておくと、些細な変化が見られたときに「もしかして…」と気づけるかもしれません。
甲状腺機能亢進症は「元気や食欲がやたらとある」という症状が、特徴的な病気でもあります。体調不良どころか、むしろ元気なように見えてしまうのです。
いつもより元気な猫の姿を見て、病気を疑う人は多くありません。しかし、「高齢な猫で、急に活動量が上がった」、「元気で食欲もあるけど体重が減っている」というような変化は、動物病院を受診した際には伝えるべき重要なポイントです。
甲状腺機能亢進症の猫では、普段より食欲が旺盛になることがよく見られます。
一方で「嘔吐」や「下痢」といった、消化器系の症状が見られることも。多食や早食いが見られることも特徴です。
下痢については、下記記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
高齢の猫が、ある時期に突然もりもり食べるようになった場合は、体重も気にしてみましょう。
甲状腺機能亢進症の特徴として挙げられるのは、「食べているのに痩せる(太らない)」という点です。たくさん食べているのに体重が増えない、むしろ減っているという場合は、甲状腺機能亢進症を疑うポイントの一つとなります。多くの猫で、体重の5%以上が減少するとも言われます。
たくさん水を飲み、たくさん排尿する症状「多飲多尿」も見られることがあります。しかし、「多飲」と聞いても、具体的にどのくらい水を飲んでいる場合は「多い」と判断すべきなのかわかりにくいですよね。
そこでまずは、1日の飲水量を測ることから始めてみてください。水が入っている器を一度空にしたうえで、500 mlのペットボトルに汲んだ水を注ぎます。そして、24時間で何ml飲んだのかを確認しましょう。
飲んだ量を体重(kg)で割って、1 kgあたりの飲水量を計算します。猫の場合は、100 ml/kg以上飲んでいるようであれば明らかに多いです(4 kgの猫であれば400 ml)。
実際にはそこまで増えないことが多いので、普段よりも多いと感じたら飲んだ量を記録しておき、続くようであれば動物病院を受診しましょう。
甲状腺機能亢進症にかかっていることから、攻撃的な性格になるケースもります。以前は穏やかな性格だったのに、ある時期から急に気性が荒くなったなどの変化は要注意。
甲状腺ホルモンの影響であれば、治療を進めていくことで、攻撃的な性格も改善されることもあります。ほかにも、まるで発情期のような行動をとるなども症状の一つです。
まるで発情期のように鳴き続けるといった症状も珍しくありません。普段とは違う声で鳴いたり、大声で鳴く・夜鳴きをする・長時間鳴いているようになったなどは甲状腺機能亢進症のサインかもしれません。
猫が甲状腺機能亢進症になってしまう原因として、いくつかの要因が考えられています。
甲状腺ホルモンを分泌する甲状腺が過形成(異常な細胞増殖・肥大)の状態になり、甲状腺ホルモンが過剰に生産・分泌されるなどが要因の一つです。また腫瘍が原因となることも多く、良性・悪性にかかわらず、細胞が暴走して増殖することでホルモンが過剰分泌されます。
確実な予防手段はないため、できるだけ日頃の健康状態を記録し、変化にいち早く気がつくことが大切です。
診断する際の最も一般的な方法は、血液検査です。甲状腺機能亢進症の確定診断にはホルモン検査が必要となり、血液中の甲状腺ホルモンの値を測定します。
甲状腺ホルモンには、サイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)があり、T4濃度を見ることで甲状腺機能亢進症か否かを判断できます。ただし数値がわずかに異常値である場合など、正確に診断するためには複数回の検査が必要な場合もあります。
また甲状腺が重度に肥大している場合には触診で分かることもあります。甲状腺機能亢進症を発症している猫の甲状腺は、左右どちらかまたは両方が大きくなっていることがあります。
甲状腺機能亢進症と診断された場合、主な治療方法は「内服薬」、「外科治療」、「療法食」の3つです。
投薬治療では、抗甲状腺薬を服用し、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることを抑えます。食欲不振や嘔吐などの副作用に注意しながら、定期的に血液検 査をして薬の量を検討します。
甲状腺ホルモンを作る工場(甲状腺)を摘出することで、過剰に出てしまう甲状腺をコントロールするという治療が外科治療です。特に腫瘍(特に悪性)が原因の場合などで適用されることが多いです。
甲状腺を切除すると甲状腺ホルモンが不足してしまう可能性があり、生涯甲状腺ホルモンの薬を飲み続けなければなりません。
甲状腺ホルモンの元となるヨウ素を制限した療法食もあります。高い効果が得られれば、薬の量を減らせる可能性もあるでしょう。その分、食べ物には注意する必要がありますので、オヤツやフードの変更などは獣医師と相談してください。
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甲状腺機能亢進症は、治療が長期に渡ることが多い病気です。投薬だけで治療を進める場合でも、適正なホルモン濃度であることを確かめるために、定期的に血液検査をおこなう必要があります。
1匹あたりの年間通院回数の平均は、8.5回。治療費の平均としては191,908円ほど、中央値は60,588円とされています。ただし、症状やホルモン濃度がある程度安定してくるまでは、通院の間隔が短くなる可能性もあります。
参照:アニコム家庭どうぶつ白書
甲状腺は、身体の 代謝を司る器官であるがゆえに、この働きが異常を起こすことでさまざまな不具合を引き起こします。血圧や心拍数の上昇など、全身の臓器・血流に影響を与えるため、因果関係のある病気も複数あります。
よく見られる併発疾患として、肥大型心筋症や、慢性腎臓病があります。甲状腺による症状のせいで、これらの病気の症状がかくれてしまうこともあるため、ほかにも症状がないかを気にしておく必要があります。
肥大型心筋症
慢性腎臓病
消化器疾患
甲状腺機能亢進症を患っている猫は、どのくらいの期間生存できるのでしょうか。ある研究によると、中央生存期間は「417日」といわれています。致死的な病気ではないとされていますが、高齢で発症することもあり、余命という意味ではやや短く感じるかもしれません。
最も短いケースでは、甲状腺機能亢進症と慢性腎不全を併発している場合で「178日」です。また甲状腺機能亢進症のみである場合は、「612日」ほど生存できたケースもあります。
発症時の年齢や、併発する病気によって寿命はかなり異なります。この病気が単独で余命に大きく影響する というよりは、他の疾患を悪化させてしまうケースが多いと考えられます。 早期に発見し、適切に対策できれば穏やかに余生を過ごせる可能性は十分にあります。
ここまで、甲状腺機能亢進症がどのような病気なのか、症状や診察・治療方法、併発症のリスクなどを紹介してきました。本章では、これまでの内容では解説しきれていない「細かな疑問」にお答えしていきます。
特定の品種が際立って甲状腺機能亢進症にかかりやすいわけではありません。いずれの猫種であっても高齢な場合は、甲状腺機能亢進症を引き起こすリスクはあります。
しかし、シャムやメインクーンといった品種に、甲状腺機能亢進症がよく見られるといった報告もあります。高 齢になってからの行動の変化には注意が必要かもしれません。一方で、ヒマラヤンをはじめとした純血種では、甲状腺機能亢進症を発症するリスクが低いといった報告もされています。
多くの文献で、8~9歳を超えると10%前後の猫が罹患していると報告されています。動物病院でも10歳を超えた猫で体重減少、活動性の変化などが見られた場合には甲状腺機能亢進症の可能性も考慮しつつ、診断を進めていきます。
まれに比較的若い猫にも甲状腺機能亢進症が見られることはありますが、その数は少ない傾向にあります。具体的には8歳未満の猫が甲状腺機能亢進症を発症する確率は、全体の5%以下とされています。
早期に甲状腺機能亢進症を見つけることができれば、その分早く治療を始められます。特に「急に元気になる」この病気では、活動量が上がるからこそ見逃しやすいものでもあります。もちろん、治療を始めてからであっても、おうちでの食欲や体重、活動の変化をチェックできるといいですよね。
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甲状腺機能亢進症は一時的に食欲が増加する、一見すると元気なように見えるなど、やや特殊な病気です。穏やかに過ごさせてあげたい高齢の猫にも無理をさせてしまう病気なので、早く異変に気づいてあげること、うまく症状をコントロールすることが大切です。
ぜひ「Catlog」や「Catlog Board」を活用して、猫の健康状態の把握に役立ててください。
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ライター
猫様のいる暮らし編集部
2匹の猫様と一緒に暮らしています。無防備になったお腹に顔をうずめ、猫吸いをさせていただくのが至福の時間。 猫様との暮らしにまつわる情報をお届けします。
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